WEB SPECIAL

非自動車のダイカスト用途


クルマ以外の用途は将来のダイカスト需要を支える


現在、ダイカスト生産量に占める自動車向けは9割を占める。軽量、薄肉複雑形状等の利点を持つアルミダイカストは自動車部品として重宝され、ダイカストメーカーも主力受注品がクルマのところが、売上高上位を独占し、まさにダイカストはクルマ需要と親子のような関係で成長してきた。このため業界は研究開発ほとんどにおいてクルマありきで物事が進んできたのだ。コスト及び品質の条件どれをとってもクルマ向けは他の用途分野より厳しい部分があり、クルマ向けを受注できることは優秀サプライヤーとしてお墨付きを貰ったようなものといえる。ただ自動車はいま急速に体質変換しており、さらに将来的な自動車需要とマルチマテリアル化も織り込むと従来のような親子関係は続かなくなりつつある。

自動車向けをみると内燃機関縮小に代わり、車載電子部品、ボディ部品など新たな用途も着々と開拓されつつある。ただマルチマテリアル化にともなう素材変更やEV化など電動化にともなう部品数大幅減など過去になく不安要素もある。世界を見渡せば「クルマを持たずにシェアする」という考え方が若者を中心に生まれており、クルマなしに十分生活できる、といった機運さえ出始めている。これにより今後30年内に自家用車の販売台数は半減するといった予測さえあるほどだ。世界の産業界の流れを分析する専門家諸氏が最近共通して口にするのは「最初に潰れるのは自動車産業にこだわった企業」だ。

一方、クルマ以外のダイカスト製品は量も少なく、製品ライフサイクルも短いなどダイカストの特徴を活かしにくい分野でもあり、ダイカスターが敬遠しやすい仕事と捉えられてきた側面がある。さらに機械的性質(内部品質)がJIS(日本工業規格)表記されていないことがネックとなり、建設をはじめ様々な分野で採用を躊躇うことが産業界ではある。ユーザーは問題が起こった場合の責任回避を考え、二の足を踏む傾向が強いのだ。非鉄金属材料で強度認定できない限り大幅な用途拡大は難しく、この課題については業界全体で取り組む必要がある。業界ではクルマ依存からの脱却が叫ばれ久しいが、かといってダイカストは20、30年後もクルマ向けが生産量のメインを占めるだろう。ただ現在の9割依存を少しでも下げる取り組みが「一定のダイカスト需要確保」につながるといえる。

これを踏まえ、最近は「業界全体が一つの方向に向かうのではなく、企業単位で様々な業種の用途を開拓する時代に入っている」と、何人ものダイカスト業界人も口を揃える。競合他社も少なく、「一企業でみると量と利益が見込める」といった潜在需要が国内にもまだ多いことが背景にある。クルマ以外の少量多品種向けに受注の軸を据えるダイカスターには底知れない強さがあり、柔軟な発想力が備わっている企業が少なくない。これらを率先して取り込んでいる経営者達は口を揃え、「誰もが敬遠するニッチ分野だからこそ、工夫次第では安定した収益も望める」と話す。一見険しそうな道には宝も潜んでいるようだ。ある経営者はこう捉える。「ユーザーは(プレス、樹脂ほか成形を)たまたま使って製造しているだけ。絶対的な根拠があって、その成形にしているわけではない」。

1