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非自動車のダイカスト用途

幸い2000年以降、国内の中小ダイカストメーカーは多品種少量の受注で採算を合わせられる体制構築に努めてきたところが多い。以前なら「この少量でこれだけの品質要求度が高いものはとてもダイカスト化して採算が合わない」といった条件を現在はものにしているのだ。部品の複雑形状化と超少ロット化に対応できることが、従来ダイカスト化できなかった製品も取り込める要素になっている。プレス、削り出しで行なっていた製品をダイカストに置き換え、ユーザーに提案するなど同業他社が全く手を付けていない新用途の製品を受注し、利益確保に結び付けているダイカストメーカーもある。他社が目を付けないうちに創業者利益を得るといった動きだ。どこも秘密裏に進めたいといった事情から、目立たないがこうした事例が最近は増えつつある。

クルマ関連以外が9割を占める中堅ダイカスト経営者も「自動車向けを増やそうとは思わない。ダイカストの特徴を最大限出せるのはクルマ関連だが、他社がみんな向いている方向に進めば、付加価値云々ではなくオンリーコストの競争に飲み込まれる」と話す。多品種小ロット受注はコスト、手間、人件費もかかるが「他社が手を付けたがらないからこそ伸び代もある。付加価値も付けやすく基本的な利益率は高い」と逆手にとることで持続した経営を標榜する。このダイカストメーカーは型替えのタイムロス率、一人1時間当たりの生産額など様々な統計をとり分析。これをもとに自前主義を捨て、「急な受注変動にも対応できる」よう協力工場を増やした体制を作っている。

他社が投げ出す仕事も食らいつき、「新規の場合は不良も多い」ともらすが、その後のクレーム迅速対応に力を注ぐ。原因を分析し、フィードバックの繰り返し。「不良は宝の山」と一見開き直った視点で、転んでもただでは起きない姿勢を貫く。また、電機関連をメインに多品種少量受注する別のダイカスト経営者も「樹脂等に置き換わったり、海外に流れたりで受注品の流れは読めない。このためいつも先を予想する習性ができた」と自信を持つ。さらにクルマ以外のものなら何でも扱う姿勢を貫く関東のダイカスト経営者もこう話す。「我々中小企業にとってクルマ関連のティア1、ティア2のユーザーに提案することは敷居も高い。だがクルマ以外のニッチ分野だとユーザーのなかには旧態依然とした体制で、高コストの素形材を使用しているケースが意外とある」と捉える。ニッチ分野だと素材転換の認識も薄く、一素形材製品を長年採用しているユーザーも多いという。このため素材転換によるダイカスト化提案の余地が高いとみているのだ。

基本的にユーザーの担当者は素材転換など面倒なことを避けたがり、現行のものをコストダウンすることにこだわりやすい側面がある。面倒を避けたいと思うのは人間心理で、理論や理屈だけではユーザーの気持ちを動かせないのが世の常でもある。提案として通常は一製品に対してダイカスト化によりコスト減や形状自由度が増す等が切り口だが、ダイカスト化がユーザーの扱っている商品群の可能性を大きく拡げ、ユーザーのビジョン拡大に貢献できる、といったイメージ戦略も今後は必要だろう。

「大風呂敷も広げてみることで何かが起こる」ことが意外とあるのが世の中で、ここで大事なのは何よりも本気度だ。今の世の中はクールに構える傾向が強くなっているが、だからこそ本気とか熱意といったものを持つことは差別化につながり、新鮮でもある。この本気度がユーザーに伝われば、ダイカスター側が考えもしなかった発想をユーザー側からしてくる可能性もある。ダイカストは玩具のレゴブロックのようにユーザーのアイデア次第で無限に形が創作できるといったイメージが出来上がれば、それをいかようにも具現化できるのが日本のダイカストメーカー及び金型メーカーだ。ただこうした大風呂敷を広げるにはコンサルティングと等しく、そのユーザーの特徴や背景を幅広く知らなければ成り立たない。ユーザーの扱っている多様な製品やその企業の特徴や方向性を知るということが求められ、勉強が必須だ。自社が関わる業界に近い業種・業界まで幅を拡げた情報収集が必須といえる。

クルマ以外の少量多品種を得意としているダイカスターのニッチ市場を狙った地道な取り組みは、ダイカストの新需要を作り上げる上で大変な力を宿している。将来的にダイカストの需要が大崩れしないためには、こうした地道な、そしてゲリラ的な取り組みの積み重ねが必須といえる。自動車向けを扱っているダイカスターは不良率等の戦いに明け暮れ、「今どうするか」に追われ、余裕がないのが実情。将来の自動車需要減という予測に不安を覚えても、「動こうにも動けない」といった側面がある。ダイカストの新需要を生むのは自動車以外の受注で勝負しているダイカスターがいま最も近い。

2020年8月31日配信

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