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特別寄稿第

    「ギガキャスト」が生み出す新しい世界

〜ダイカストは新しい時代へ〜

   「ギガキャスト」が生み出す新しい世界


鹿取事務所

                            鹿取貞夫

              〒222-0002 横浜市港北区師岡町1062-3

EVの生産技術から生じた「ギガキャスト」は、ダイカスト産業の姿を変える。70~100以上の部品を一括鋳造できることは、自動車の生産構造を根元から変えて行く。ギガキャストの巨大設備は99%が中小企業と言われる日本の産業構造の中で僅かに数社が持つことができる。そのままでは、他の大多数の企業は仕事を失う。内燃エンジン車が減少すれば、それが加速される。

ダイカストは多品種少量生産には転換できない。西欧型のOEM企業であれば、大量生産でなくても、自ら自動車を生産し、専業のメーカーと提携することもできる。それ以外の企業は生存を親企業に連なるタテ経路に依存することはもはやできない。製品と製造技術にイノベーションを起こして自立新生を図ることになる。OEM企業が林立し、それに連携する小規模だがユニークな部品供給者が繁栄を謳歌する時代をやって来る。


●Cast-Designerによるイノベーション

イノベーションは仮説の検証を繰り返すことで成功を生み出す。シミュレーションは仮説の検証手段である。試行錯誤だけがイノベーションに行き着く道筋である。正解はその前提ではない。設計の正しさを検証するためのシミュレーションは、正解を前提にしたもので本末転倒である。

不透明な未来を生き残るためには、鋳造解析プロセスの革新的高速化が必要である。その鍵は、「フロント解析」の速さと精度である。テスラのギガキャストを支援し続けるCast-Designerはその要求に応えられるソフトウエアである。ゲート・システム設計を強力に支援する機能を持ち、高速の解析を行うCast-Designer本体に加え、随伴するGeo-Designerが強力なフロント解析をする。

 

●Geo-Designerはモデルを数分間で解析

Geo-Designerは複雑形状の鋳造に必要なフロント解析を数分間という短時間で実行するソフトウエアである。結果は三次元コンタで柔軟に表示できる。X線やCT法で見た目とまったく同じである。Geo-Designer の解析結果は、製品の厚さ、質量分布、抜き勾配またはアンダーカット、フィレット半径チェックなど、CAD システムと比べて非常に豊富である。

産業上の課題として、設計された製品には、しばしば無理があり、鋳造の可能性が考慮されていないことがある。X線探傷チャートに複数の「引け巣」欠陥が示されているケースで、プロセス設計の前に、Geo-Designerが製品のDFM評価をすれば予測とトラブルの回避ができる。Geo-Designerは90% の引け巣欠陥を予測でき、3D鋳造例から開始して、その所要時間はわずか1分である。製品設計部門と製造部門が直接対面で設計の打ち合わせや修正を行うことができる。(図1~3)

(図1)Geo-Designer:肉厚解析

(図2)Geo-Designer肉厚解析

(図3)Geo-Designer肉厚解析

Geo-Designer V3.6.0 は、鋳造製品の熱伝達および分布領域の解析に使用できる
新機能、熱分布指数 (HDI) を提供する。(図4)「高速でシンプル」が他の数値シミュレーション手法との主な違いである。さらに、金型設計を支援する「スライダー解析」(図5)、エジェクタ・ピンの設計に役立つ排出力の大きさと分布を提供する「排出力解析」(図6)を追加した。また、部品から砂中子を抽出し、構造の合理性の解析を支援する「砂中子検査・設計」(図7)機能を新たに追加した。

(図4)Geo-Designer熱分布指数

(図5)Geo-Designerスライダー・ゾーン解析

(図6)Geo-Designer排出力計算

(図7)Geo-Designer砂中子の構造、強度、断面

Geo-Designer のもう1つの主要な応用分野は、ジオメトリ・解析のフィーチャのチェックである。 厚さ、抜き勾配、フィレット半径などの情報は、製品の設計や製造プロセスにとって非常に重要である。Geo-Designerに必要なのはパーツのジオメトリのみである。図は、Geo-Designer モデルで排出力の計算を開始した解析結果である。システムで定義するのは、解析の精度、材料の選択または材料の排出力係数 、摩擦系数である。正面からの排出力計算をした結果である。解析結果の総排出力の単位は kgf である。分布図には各解析単位の排出値と分布が表示される。ユーザーは解析精度スケールを通じて解析単位のサイズを調整できる。

図には各解析単位の排出値と分布が表示される。熱分布指数 (HDI) 熱分布指数では、周囲の媒体の熱影響要因が考慮される。たとえば、チルは局所的な冷却を促進し、断熱材は局所的な温度を維持して冷却を遅らせることができる。

Geo-Designer の強力なグリッド・ブール演算機能により、砂コアの抽出が非常に便利になる。砂中子の構造、強度、断面寸法等のような評価を短時間で確認できる。


Cast-Designerはゲート・システム設計を高速化する

Cast-Designerの解析には、高速のメッシング機能「ファスト・メッシュ」が活躍する。「クイック・キャスト」は設計と解析の繰り返しをカットする。普通、一件の鋳造に対して、複数の方案を作成し、ポストプロセスを実行し、それらの解析を繰り返さねばならない(図8~9)。「有限要素法とCFDのデュアル・ソルバー」は速度、合理性に優れる。オプションでDOE、GA法、POSなどによる方案の最適化、および製品と金型の機械的特性解析のためのツールを提供している。

特筆されるのはCast-Designer独特の「ゲート・システム設計」ウィザードである。鋳造シミュレーションは仮説の検証プロセスである。その目的の殆どはゲート・システムの適正化にある。ゲート・システム設計と熱流動解析が連動することによって、適正工程を得ることができる。このウィザードには、補助ツールとして、加速比などのパラメータを自動算出するカルキュレータや、マシン・材料のデータベース、さらには、業界のガイドラインが多数含まれており非常にわかりやすく、扱いやすい。

ゲート・システム設計にはCast-Designerの「フリー・デザイン」機能が古くからよく知られている(図8)。マンガから始める設計でも、3次元の複雑設計でもフリー・デザインは縦横に機能を発揮する。

「クイック・キャスト」は検証の繰り返しを防ぎ、短時間にゲート・システムの迅速な評価と最適化が可能にする(図9)。ゲート領域の割り当てを数分で最適化する。平衡流れ状態を得られる。ゲート調整の推奨事項を明確に示す。ゲートの色、流れの長さ、充填時間などの豊富な結果を提供する。パーツの体積や平均肉厚などから提供された加速比に合わせて、ゲートやメインランナの数を調整する。

(図8)Cast-Designerクイック・キャスト:ゲートの最適化

(図9)Cast-Designerクイック・キャスト:ゲートの数とサイズ

既に有名な「スマート・ランナー」機能はギガキャストで、決定的な効果を発揮する(図10~11)。ギガキャストに必須の「複数パーティング・フェース」に対するランナー設計に威力を発揮する。大型鋳造以外に、今後増加するだろう極複雑形状に対するランナー設計にも高い効果を期待できる。

Cast-Designerは大型、複雑製品に対するだけではなく、カメラ部品や肉厚0.5mmの製品に対してまで広く使われている。中空成形、チクソ成型のオプションも用意がある。特に、「重力鋳造解析」は大型、複雑製品の試作用金型の需要増に対応する。風力発電、機械、船舶、車両にも多用される。

(図10)ギガキャストに必須のスマート・ランナー

(図11A)Cast-Designerフリーデザイン:リングゲート

(図11B)Cast-Designerフリーデザイン:複数のゲート

Cast-Designerの「冷却の、設計とシミュレーション」を画像で紹介する。冷却ダクト、リアルタイム設計、リアルタイム評価ができる。ファスト・クーリングで複雑な温度制御水管ラインの評価も可能である。例えば、矢印のさすように、製品の構造と肉厚により、青色の部分が効率の悪い箇所となる(図12~13)。

(図12)Cast-Designer冷却温度、分布、効率

(図13)Cast-Designer赤い部分は冷却が不十分

おわりに

日本での主要企業では、過去の経験と知識を重視するあまり技術の革新は起こり難く、海外に周回遅れとなる結果となった。既存のHEV依存を継続しても、販売台数も利益も確保できる。その一方EVは普及が進んだ場合採算性が低くなる。これらが技術開発を妨げている。

テスラは技術の高度化を進める。車体下部のほぼ全てを一体成型する技術の実用化も近いとロイターが報じた。1万6000トン以上の型締力を持つマシンが必要とされる。中止されたとは言え、本田とGMは2022年4月に量販型EVシリーズの共同開発し、数百万台のEVを世界で生産・販売する計画を立てた。中国市場では、EV促進の国策によって日本メーカーが撤退を含む苦戦を強いられている。安価で強力なEV車が日本市場を席捲するのも遠い将来ではない。

今や、AIが生産技術の標準化、最適化を容易に実現することが実感される。しかし、それには危険がある。人の一瞬のひらめきがAIの結論を覆えして革新をもたらす。俊敏な頭脳の回転があれば、勝利は得られる。Cast-Designerのシステム設計機能とその高速シミュレーションは人の仮説を試す効果的な手段である。

以上

 

◇資料提供

C3P Software International Co., Ltd.

Hong Kong, New York, Guanzhou

202年ダイカスト新聞1月日新年特集号掲載

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