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EV化と内燃機関の二刀流

脱炭素へ向け、〝慌てず騒がず〞の足元見据えた取り組みに軸足

EV化と内燃機関の二刀流戦略とる日本のダイカスト


電動化、車体向け大型アルミダイカスト需要取り込むリョービとアーレスティ

 世界各国が脱炭素へ向けた表明を相次ぎ行ない、EV化への音頭が一層熱くなっている。投資の世界でも経営戦略にEV化に軸を据えた計画を盛り込めば、資金が集まりやすい流れも出ている。今夏にはEU(欧州連合)が2035年に二酸化炭素(CO2)排出ゼロを目指し、HVを含めたガソリン車の新車販売を事実上禁止する案も打ち出し、EV化へ舵を切る動きが顕著だ。ただバッテリー、インフラなど課題も山積し、実現性にはいまだ懐疑的な意見も多い。特に日本の企業サイドでは内燃機関が急速になくなることはないとの見方が大勢だ。ダイカスト業界でもリョービ、アーレスティをはじめタイにアルミダイカストメーカー2社を持つ大同メタル工業ほか大半の企業が、「EV化は進展するものの内燃機関需要も依然底堅い」と予想し、各社のビジョンも当面は内燃機関、徐々にEV化進展とした構想で経営戦略を描く。いわば二刀流戦略をとっている。ここでダイカスト専業として世界トップランクに位置するリョービ、アーレスティの計画をみることにする。

ダイカスト需要量ピークは2035年~2040年と予測

 リョービは世界の自動車販売台数が2040年頃を境に減少することを想定し、この期間の電動化の主流は当面HVと予想する。ダイカスト需要量のピークを2035年~2040年と予測し、ガソリン車と比較し、HVのダイカスト使用量は15%増、EVは31%減と試算し、軽量化と相まって車一台当たりのダイカスト使用量は今後も大きく変わらないとみる。同社にとっては車の動力源が変化しても重量10㌔㌘程度の大型ダイカスト品の需要増を見込んでいるためだ。同社はボディ・シャシー(サブフレーム、インパネリインフォース等)、バッテリーケース、eアクスル等でのニーズを踏まえ、一体化を活かした大型ダイカスト品需要は増加していくと判断。次世代車向けに軽量化、電動化の2点で攻める方針だ。なお、最近受注が増えているのはHVトランスミッション、PCU/インバーター他、ボディ・シャシーで、新規受注のうち次世代車向け比率は現在38%(売上高ベース)に上る。2021年以降はモーターケース、減速機・ディファレンシャル他、PHVバッテリーケースで増加を見込み、2020年代後半からeアクスルや一段と大型化が見込まれるBEVバッテリーケース、30年以降はワイヤレス給電装置部品、インホイールモーター部品等でのダイカスト需要を予想する。

EV,HV,内燃機関と各市場に応じた需要に応じたグローバル供給

 一方、アーレスティはEV化では新たなビジネス領域が創出されること、内燃系の従来型エンジン車とHVについても一定割合で持続すると判断、どちらも同社ノウハウが生きる領域と見定める。同社の試算による自動車1台当たりのアルミダイカスト使用量は、従来のガソリン車を100とするとHV及びPHVは内燃機関と電動系部品の両方を併せ持つため20%増、EVはエンジン、トランスミッション部品がなくなるため20%減と分析する。HV・PHVの増加はPCU部品やバッテリーケース、モーターハウジング機能等が追加されることを試算してのものだ。またEVやFCVは内燃機関がなくなる一方で、電動化にともなうインバーターやコンバーター等の電気制御関連部品、減速機を一体化した電動駆動ユニットのeアクスル、モーターハウジング、バッテリーケース等の需要を期待する。同社は今後のグローバルなダイカスト需要について期待される車体系部品以外でも成長を予想する。HV、PHV、FCV、EVの電動系搭載部品の売上シェアを2019年度の 9%から 23年度に18%、25年度に約30%を目指す。EVで先行する欧米OEMの動きも今後は拡大するビジネス領域とみて捕捉していく考えだ。供給体制としても同社生産拠点は中国とインドにあるため、中国は政策により加速度的にEV化が進む半面、インドは電力・インフラ事情により従来型エンジン車がHV等を含め9割以上とみて需要地に合った供給戦略を描く。


 中国で2020年夏に発売された小型EV「宏光MINI EV」(五菱汽車)は45万円からと考えられない低価格を実現。中国でも販売好調なテスラの「モデル3」より10分の1の価格で、EVの概念を変えた車としてEV普及のエースとして躍り出た。ただ部品などかなりコストを切り詰めた仕様で、バッテリーを含めトータルの安全性で課題もあり、当面市場は限定的といえそうだ。自動車は10年単位の長期において安全安心が担保とならなければ、モノづくりとして成立しない産業。ワールドワイドに展開するとなると品質保証の重要性が現在以上にクローズアップされることになり、EVにとってはここをクリアできるかが鍵になる。

 現段階で量産車として安全安心なEVをつくるには高コストになる。だが富裕層を顧客とする超高級車にいたってはこのコストをまるまる販売価格に転嫁できるのがアドバンテージだ。メルセデス・ベンツは2030年までに全新車販売をEVにすることを視野に入れており、2030年までに総額400億ユーロをEV研究開発に投じる計画。

2021年9月8日配信