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機能統合の時代


ニーズは機能統合及びマルチ化の方向へ加速

部品調達は集約化・効率化が潮流‼ 生き残りへ素形材企業の統合・連携進む

 時代の流れは様々なモノ、コトが機能統合及びマルチ化した方向に進んでいる。一台で何役もこなす複合機が全盛なのもいい例だ。コピー機を始めとした事務機器、さらにスマートフォン、パソコン等のIT機器類の変遷をみると一目瞭然。一つで何役もこなせるモノが誕生したことで、一機能しかない専用機器の多くは駆逐される方向にある。製造業を見渡せば産業機器でもマシニングセンタの進化、さらに近年はロボット活用が目立ってきた。専用機に比べダウンサイジング化、メンテナンス化が容易で、応用・汎用性のあるロボットを軸にした生産ラインが次世代のスタンダードに浮上。ロボット、IoT、ビッグデータ、AIの誕生はそれぞれ単独で始まったものだが、これら分離したものを融合することで爆発的な相乗効果を生み出すことを目指す。モノづくりの生産体制そのものも機能統合及びマルチ化しているのだ。これは企業取引についてもいえ、自動車部品に至っても電動化による機構変化が進み、小型・軽量化を軸にした部品機能の統合、いわばモジュール化もこの一環になる。

多種多様なニーズ対応へ、製造現場も混流生産が主

モーター、インバーター、トランスアクスルを一体化した機電一体の電動駆動モジュール「eAxle」

 その代表例がモーター、インバーター、トランスアクスルを一体化した機電一体の電動駆動モジュール「eAxle」2019年にアイシン、デンソーにより共同で設立された企業、BluE Nexus(愛知県安城市)によるもので、同社は電動化システム・電動駆動モジュールの開発販売に特化した企業になる。アイシンはトランスアクスル、デンソーはインバーターでともに世界トップシェアを誇り、またモーター開発でも両社は世界トップ水準、ここに2020年にはトヨタが10%を出資し新たに参画した。裏を返せば、世界トップのノウハウを持つ企業でも単独では生き残れない証左だろう。マルチ化はeAxle新製品の製造現場にも及び、例えばユニット組立ライン(安城第一工場)は150kWフロントユニット、80kWフロントユニット/リアユニットの3機種を混流生産できる仕様だ。全自動の共通固定プラットフォームと変動対応エリアの組み合わせで、複数の異なる機種を生産できる「セル生産」を新たに導入。さらに新設した組立機は、ロボットアームに装着する「ツール」を自動で持ち替えることが特徴で、これにより混流生産に対応できるだけでなく、1つのロボットで複数の工程を処理することができ、生産ラインの小型・低コスト化を実現している。

アルミダイカストの超大型一体成形

 部品調達を集約化・効率化したいといったニーズから、ダイカストでも型締力5千~1万㌧に迫る巨大ダイカストマシンによる超大型一体成形の量産が中国、欧米で過熱している。先陣を切ったEVメーカー、テスラを追うように既存メーカーのVWやボルボも積極投資に走っている。日本でも完成車メーカーが6千~7千㌧級マシンを国内工場に導入検討する情報が飛び交い、さらに金型メーカー各社も超大型一体成形を得意とする欧州メーカーと提携等の動きが活発だ。超大型一体成形の利点は調達網にもあり、コロナ禍でグローバルサプライチェーンの脆弱性が露見したが、この調達リスクを軽減できるメリットがあるのだ。既存のサプライチェーンのなかでは部品調達において規模の小さい完成車メーカーほど優先順位が下位になる。

6500㌧クラスのダイカストマシンで製造するアルミダイカスト製EV用バッテリーパック部品

 サプライヤー側からみて、供給の優先順位は既存の完成車メーカーを上位に据えるのは当然で、生産台数が少ない新興メーカーが割って入ることは難しい。新興EVメーカーが大型一体成形を望む理由もここにある。ただ課題も浮上しており、超大型一体成形の量産品を検証した関係者は、「合金をはじめ品質的にはまだ課題がある」との見方もある。現下はいの一番にカーボンニュートラルが求められる社会で、技術的に出来るからといって大鑑巨砲の生産工程構築に邁進することは憚れる。こうした社会情勢もあり、VWは超大型一体成形をダウンサイジングで行なう道筋も付けつつある。本来なら6500トン級マシンで製造する製品を4千トン級マシンで製造することに成功、カーボンニュートラルへ向けた大型一体成形の選択肢を増やした格好だ。一方、日本国内をみると完成車メーカーが超大型機を国内工場に導入する情報が一部界隈をにぎわせ、国内ダイカストの変革期になるとの期待感も出ている。だが、「法規制を含め、日本では4千㌧内のマシンでいかに大型一体成形を取り込んでいくかに絞った方が得策ではないか」との意見もダイカスト業界諸氏から挙がる。

素形材メーカーは単独から連携への流れが進む

 アルミダイカストによる超大型一体成形をはじめ、車体部品のマルチ化進展は素形材企業の在り方にも波及し、単独から連携への流れを否応なく呼び込んでいる。その代表例がダイカスト専業で売上規模2位のアーレスティと大手車体部品メーカー、ジーテクト(埼玉県さいたま市)との共同開発だ。両社は車体部品とEV関連部品における共同開発を行うことでこのほど基本合意した。急速なEV化進展とカーボンニュートラルに向け、軽量化の観点からアルミの可能性を引き上げ、それぞれの技術領域のノウハウを補完し合っていく方針だ。プレス製品を主体とするジーテクトは今後10年のEV関連投資を700億円と計画し、量産EVの衝突安全性能を独自評価した次世代軽量高剛性ボディ開発に邁進している。さらにこれまで培った車体一台解析技術を駆使し、EV 向けのアルミ製バッテリーハウジングの製品開発にも新たに着手している。LCAの観点からアルミ仕様が主流となることを見込み、ニーズに合わせ素材(アルミ、鉄)の組み合せを可能とするハウジング開発になる。部品単品の提案だけでなく、車体一台の全体最適を考慮し、「開発から量産までを担う車体専門メーカーを目指しており、アーレスティとの共同開発が加わったことで一段と実現性が高くなったといえる。

サプライヤーは何役もこなす多才な能力が求められる

 環境技術や電子化・自動運転など開発領域はかつてないほど広がりをみせ、完成車メーカーやティア1は自前主義からアウトソーシング化する方向にある。この流れからサプライヤーの素形材企業は一社で何役もこなす多才な能力が求められる。受け皿として専門特化と受注領域を拡げる内製拡大・充実化の方向にある。現在のダイカストメーカーもこの流れに沿って進化していることになる。ダイカストメーカーの設備機器類は多様化し、さらに現在も膨張中なことはダイカスト新聞社発行の「ダイカスト工場便覧」をみてもわかる。便覧購入者にはダイカスト向けに設備機器類を売り込みたいとする新規参入組の企業も多い。その関係者がこれまでの同便覧を初めて目にすると一様に1社当たりの設備機器類の量とその多様さに驚きを隠さない。20、30年前のダイカストメーカーと違い、いまは鋳造を軸にその前後工程となる金型や機械加工、なかには組付けまでの工程を内製しているところも増えている。加えて品質保証の急激な高まりから以前に比べかなりの精度と人員を要している。現在のダイカストメーカーの姿はいわば各工程の専門メーカーを数社併せ持ったような形態に膨張しているのだ。何役もこなすマルチな複合機と同じように、ダイカストメーカーも各工程を揃えたマルチな複合化メーカーに変貌、進化している。