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エベレスト登山化するダイカストメーカーの体制

 ダイカストメーカーは2000年以降、ユーザーでもある大手内製メーカーが設備投資を抑制する動きが増えた一方で専業メーカーは請け負う領域が拡大し、受注規模が以前より大きくなってきた。世界の完成車メーカーは部品メーカーを囲い込むことよりオープン化しその都度、最適なものを最適なサプライヤーから調達する流れに進んでいる。自社の強みに経営資源を集中し、代替が効く工程は外製化する動きが潮流で、この流れは内製する部品部門にも及び、今後は素形材事業を切り離し、分離独立させる動きが強まりそうだ。


 鋳造だけでなく、その前後工程の一貫内製化等で、現在のダイカストメーカーの姿は中小規模でも各工程の専門メーカーを数社併せ持ったような形態に変貌。これには90年代以降、外注協力工場の減少も内製強化に輪をかけた格好だ。山登りで例えれば、ユーザーの要求に応えていくうちに「気が付けばとんでもない高度まで登っていた」のが今のダイカストメーカーの体制だ。下を見ながら登るというよりは、下を見る余裕もなく、しがみつくように這い上がってきた感じだ。ユーザーの要求に他素形材業種ならば「出来ない」とあきらめていたことも、「あの手この手で出来るようするための投資を重ね、体制を整えてきた」のがダイカストの歴史で、これが何役もこなすマルチな複合メーカーに変貌、進化してきたのだ。中級程度の山からいつの間にかエベレストを登山していたといった感じだろう。


 このため高度にともなう酸素量の急激な減りに対し、徐々に増えていった設備機器類のあまりの重さで、身動きが取りにくくなっているダイカストメーカーが増えている。なかには「体力も消耗し、降りることさえままならない」といった状況のところもある。経営者の苦労は計り知れないほど膨らんでいるのだ。中小企業にとっては人材、資金が乏しく、「先を見据えるより、今に追われる」とした声が大半。「更新など既存の投資に追われ、IOT化、ロボットなど新たな次元の投資までする体力がない」とした企業も多く、近年はこの差が競争力に跳ね返っている。他業種に比べ、大きな投資額が持続して必要なダイカストの形態を考えると、オーナー一族だけで切り盛りすることは大変難しくなりつつあり、今後は資本と経営の分離が一段と増えることも予想される。

2022年1月11日配信