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努力はみえない


表面に見えるものと裏側では大きく違う

「楽に稼いでいる」ことに大変な憤りを感じやすいのが人間で、汗水たらしての努力がみえないと納得しない。大半の人がその裏にある努力まで想像できない。プロ野球やサッカーで一流といわれる選手も体調万全で試合に出られることは1シーズンでほぼないといわれる。大半が大小の怪我を抱えており、それを隠しながら全試合フルシーズンで一定のパフォーマンスをみせている。優雅に悠然と湖にいる白鳥でも水面下では必死に足をバタつかせているのと一緒で、表面に見えるものと裏側では大きく違うことが多い。


 人は表面しか見ようとせず、それに流されやすい。こうした人間の性質が悲喜劇を起こしている。ダイカスト業界でも着実に業績を伸ばしている企業が散見されるが、これら企業も前述した白鳥のようなもので、水面下では必死に足をバタつかせているといえる。外から見るほどの優雅さは微塵もなく、なり振り構わない自転車操業的なところが多い。社内からみても「よくこの体制でやっていけるな」とあきれと感心が入り交じった声を挙げる従業員もいるほどだ。


 優秀、堅実といわれる企業でも、その企業の内部の人間からすると、むしろ自社の短所しかみえないことが多い。粗探しのような眼で自社をみているのが従業員の習性でもある。雇用されている身だと外の世界を広くみた上で自分の立ち位置を確認するといった殊勝な姿勢の人は大変少ない(笑)。自社内だけが世間になり、非常に狭い視野になりがちだ。このため「隣の芝生は青い」状態に陥り、転職して失敗するといった悲劇が増産されている。


 顧客を引き付ける企業がダイカスト業界にも点在するが、こういった企業は失敗しても「今後の技術にフィードバックできる」と前向きなところが共通する点といえる。全てを糧にする貪欲さがこれら企業にはあり、端から見れば大変な努力でも、習慣化しているせいか努力と思っていない節さえある。雇用されている身の習性である〝狭い視野〞を逆手にとり、習慣化が定着しているのだ。努力すると思うと気が重くなり、「努力しろ」と言われるともっとやりたくないのが人間。ただルーチンワークだと思うと遂行することが当たり前になる。


 努力を努力だと思わせない、「脳を騙す」習慣化を定着させるのは経営陣の役目ともいえる。産業環境の大変革下にある今日、なかでもダイカスト業は構造的に多大な設備投資に追われ続け、資金繰り地獄のループから抜け出せない傾向が強い。中小規模の経営者は私財など一切合財を担保に経営し、会社が傾けば全てを失う人が少なくない。まともに考えると「逃げ出したい

と思う経営者が多いだろう。それだけに既に自身の「脳を騙す」習慣化を行なっている人が多いのではないか。


2021年4月2日配信