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不良率がやり玉


裏付けある軽量化技術で不良率がやり玉のダイカスト

ものづくりといわれる製造業の大半は成熟化した産業と捉えられてきたが、CAEをはじめとする解析・分析技術やAI(人工知能)の進化で、いま新たな産業として生まれ変わろうとしている。こうした状況下、完成車メーカーは解析・分析技術の進化で素材・成形法から見直して作り込もうという意識が非常に高まり、サプライヤーも解析・分析技術を駆使し、「裏付けある軽量化技術」として提案しやすい環境が出来上がりつつある。解析・分析技術の進化は「限界のハードルを越える大きな武器」になっているのだ。

これにともない、「従来にない形状と精度を引き出しながらも、時間とコストは最大限切り詰める」ことを各成形の業界とも目指している。統一設計による主要部品のモジュール化や共用化が至上命題となり、各素形材を調達する大手ユーザーでは生技・製造と各工程担当者の同席設計による情報共有化が進む。そうしたなかでやり玉に挙がるのが「アルミダイカストは他の素形材に比べ、なんでこんなに不良率及び突発不良が多いのだ」。

各部署の情報共有化による全社一丸での見える化が進むなか、「シリンダーブロック等の不良率があまりに高い」ことが自動車メーカーの課題に挙がる。従来は想定内としてみられていた案件だが、部品共通化・平準化が加速することに比例し、リスクの一つに浮上している。無駄を極力省き、大幅な生産性と機動力を併せ持つ「賢いモノづくり」へ舵を切るなか、そのなかでダイカストの不良率案件は「賢いモノづくり」をする上で、何が何でも解決しなければいけない問題となっている。

この問題は過去から常に議題に挙がってきた案件ではある。ダイカスト業界でも不良対策をあの手この手で行なっているが複雑形状・薄肉軽量化など製品自体の高度化進展も相まってイタチゴッコの様相だ。「これさえやれば不良率が限りなく減少する」といった大きな決め手がなく、これまできた。溶湯を具現化する難しさを知るだけにダイカスト業界内では「この程度は想定内」とした意識がある。だがダイカスト業界外の者からすると「同じモノづくりでありながら、この不良率はなんだ」ということになる。業界外の人に対しダイカストの難しさを説明しても、「理論的な裏付けが乏しい」ように映るようだ。

さらに金型代も高く、コスト的にも負担がかかることもネックとなっている。エコカー時代とは「大きな変革期に突入し、過去の延長ではない」と自動車メーカー幹部は話す。自ずとダイカストの位置付けも変わりつつある。アルミダイカスト生産量の9割が自動車部品として使われているが、業界関係者も「電動化や水素エンジン化による材料転換などがあれば危機的状態に陥る」と危惧する。自動車以外の用途拡大が業界全体の課題として上がり久しいが、ここで用途拡大の壁となっているのはアルミダイカスト強度がJIS(日本工業規格)保証されていないことだ。非鉄金属材料で強度認定できない限り大幅な用途拡大は難しく、自動車部品などに限られた使用範囲とならざるを得ない。軽量、薄肉複雑形状などの利点をもつアルミダイカスト製品に置き換えられる用途は建設ほか多くの業種で無数にある。ただダイカストの機械的性質(内部品質)がJIS表記されていないため、ユーザーは問題が起こった場合の責任回避を考え、二の足を踏む傾向もみられる。

ダイカストは品質を追求すれば合金一つとっても添加材の含有量バランスなど微妙なさじ加減が良品・不良品を左右する。さらに溶解、金型、鋳造、加工の一連の工程を含めると管理ファクターの異常な多さが浮かび上がる。これら問題点に真正面から取り組めば、取り組むほど設備投資負担が増す構図で、どうバランスを取るかジレンマに陥る業種だ。一方でリサイクル性を含めアルミダイカストはSDGsに沿った最右翼の素形材で、潜在需要は非常に高い。内部品質向上へプロセスを可視化し、いかにコントロールできるか課題は尽きないが、ここに真正面から取り組む設備関連業者も少なからずある。ダイカストメーカーと設備関連業者、そして大学等の連携、こうした取り組みが今後は従来になく増していくことが予想され、殻を打破する近道だ。決め手は人の柔軟な発想力だ。

2021年3月5日配信