人とくるまのテクノロジー展2019 見学レポート ③樹脂及びCFRP、CNF成形編(2)

三菱ケミカル、金属代替の樹脂・CFRPをグループ総出で展開

三菱ケミカルは短繊維の炭素繊維材料(SMC)を使用した量産実績を披露、2017年発売のレクサス新型クーペLC500、LC500hの「ドアインナー」〔写真10〕を展示した。この両車種ではラゲッジインナーでも採用され、さらにトヨタのプリウスPHVでもバックドアで使用されている。量産車での採用は大幅軽量化と複雑形状部材を生産可能とする成形性、量産車部材の製造に必要な生産性を兼ね備えた点が評価された。

写真10

SMC(シート・モールディング・コンパウンド)はCFRPの中間基材の一種で、長さ数センチメートルにカットされた炭素繊維を樹脂中に分散させたシート状の材料。2分硬化でネットシェイプ成形のハイサイクル性を特徴とし、汎用油圧プレス成形機の転用が可能。成形圧力(3~10MPa)、金型温度(130~150℃)になる。さらに低コスト化も利点で、次のような点がコスト削減につながっている。①プリフォーム不要、②複雑形状を賦形可能、③部品統合によるコスト低減、④廃棄材料が極めて少ない成形、⑤成形後のトリミング不要、⑥金属インサート可能。


三菱ケミカルは2015年に愛知の豊橋事業所でSMC製造ラインを新設して以降、現在SMCで世界最大の生産能力を持つが、さらに需要増を引き出すため今年初には米国のSMC加工等を手掛ける複合材専門メーカー、ジェミニ社(ワシントン州シアトル)を買収した。米国での自動車向けSMC部品の開発製造を強化する狙いがあり、2020年に炭素繊維・複合材料事業の売上高1千億円を目指す。


三菱ケミカルが開発した炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)「パイロフィルペレット」は各樹脂に炭素繊維を配合した射出成形材料で、大量生産に適し後加工が容易なのが特徴。金属代替用途に適応するため強度と弾性率を持ち、寸法安定性、耐摩耗性、耐疲労性能が優れる。熱伝導性にも優れ帯電防止、電磁波シールド効果が期待できる。さらに耐熱、耐薬品等の規格に応じた樹脂の選定が可能なほどラインナップが豊富なのも特徴だ。このパイロフィルペレットを軸に三菱ケミカルは高熱伝導、高強度シールド樹脂による未来への部材コスト低減をパネルで提案した。その内容は①アルミダイカストに比べ、二次加工コスト低減、②従来の放熱樹脂に比べ、部品数削減と高速ICへの対応を目指す。

ブースでは三菱ケミカルグループの日本ポリプロの「バックドア・インナー」〔写真11〕も展示した。高性能ガラス長繊維強化ポリプロピレン「ファンクスター」で製造、量産車で採用されている。金属からの樹脂代替化を目指した製品で独自の溶融含浸法とポリプロピレン複合材料・設計技術を融合し開発された。ガラス繊維が長い状態で絡み合うため、従来エンプラに比べ最大3割の軽量化と高衝撃性・高剛性を備え、設計自由度(高寸法安定性)と容易な成形性が特徴。実績用途部品はバックドアのほか金属代替としてフロントエンドモジュールボルスタ、従来の樹脂代替としてサンルーフフロントフレームなどがある。生産拠点は日米中の3拠点あり、日本での開発案件を即海外展開できる体制を構築している。

写真11

次いで三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズコンポジット(三重)は複合材「GMT/ GMTex」による「シートフレーム」〔写真12〕を披露した。GMTは金属代替を目指し、熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)をガラス長繊維マットで強化したシート状の複合材で、比重は鉄に比べ80%減、アルミに比べ50%超減になる。ガラス長繊維はニードルパンチにより3次元的にステッチされ、マット化されており、ガラス繊維を強化材とした他素材と比べても耐衝撃性が特に優れ、クラッシュ時も部品の飛散がない。GMTの利点として周辺部品の一体化により部品点数削減が可能。またGMTexはGMTをベースにガラス織物を追加したもので、鉄やアルミに比べ引張強度が高い。採用実績はシートフレームのほかロールオーバーバー、フロントエンド、リアシートバック、多機能ボックス、スペアホイールパン、アンダーボディプロテクション、バンパーレインフォースメント、ハッチバックドア。

写真12

日東紡、グラスファイバーによるシリンダーヘッドカバー

グラスファイバーによる「シリンダーヘッドカバー」〔写真13〕を出品したのはガラス繊維メーカーのトップを走る日東紡。同社は1938年に日本初のグラスファイバーの工業化に成功し、現在では糸の製造からガラスクロス加工、複合材料の開発まで一貫して手掛ける。高い形状安定性や加工性だけでなく、耐衝撃性や耐熱性を有した同社のグラスファイバーは電動化部品にも活かせるとしてユーザーへの提案に力を入れている。

写真13

独自技術により実現した「フラットファイバー」はグラスファイバーの断面を通常の円形でなく、長円形の異形断面をもつガラス繊維がある。成型品の反り・ねじれを抑え、わずかな歪みも許されないスマートフォン等の小型電子機器の筐体に使用されている。シリンダーヘッドカバーのようなソリ変形が発生しやすい形状においても優れた低ソリ性を発揮。強度の異方性が小さいため、ガスケット反力による変形が抑えられ、品質の安定と耐久性をもたらすとしている。なお、グラスファイバー製造は1300℃以上の高温で溶融紡糸が行われる。ガラスは高温度溶融化された状態では非常に活性で、溶融炉、紡糸炉等も高価な白金系の材料を使用し、温度制御等も高温度下で非常に精密なコントロール技術が必要とされる。

独ベルホフ、樹脂化した量産品のフロントエンドモジュール

「欧州ではどんどん樹脂化が進んでいる」というのはドイツのベルホフ(日本法人・名古屋市)だ。同社は締結及び組立技術のリーディングサプライヤーで、鉄、アルミ、マグネ、樹脂からなる部品の接合ノウハウを持ち、軽量構造のための効率的接合ソリューションを展開する。展示会では鉄から樹脂化した量産品「フロントエンドモジュール」〔写真14〕を出品。これはヴァレオを通してホンダのCRVで採用されたものになる。

写真14

デュポン、部品のノイズ低減ニーズに樹脂化で対抗

「自動車部品のノイズ低減」を掲げ、アルミダイカスト等の金属部品からの樹脂化を目指しているのが米国デュポン社になる。軽量性、高耐熱性だけでなく静粛性の観点から樹脂のメリットを強調している。EV化をはじめとした車の電動化が急速に進むなか、燃費だけでなく「騒音規制も世界で急速に進む」と判断。このため既存のレイアウト変更を最小限に抑え、将来の騒音規制に対応するため、騒音解析による効果検証を繰り返し、裏付けある樹脂部品を提案する。対象製品はタイミングベルトカバー、タイミングチェーンカバー、オイルパン、シリンダーヘッドカバー等で、ブースでは量産部品や提案製品〔写真15〕を展示した。

写真15

200℃以上の環境で長期使用可能な高耐熱ポリアミド製品群をラインナップする同社は各種配管〔写真16〕の樹脂化にも乗り出している。革新的なポリマー改質技術により高耐熱、耐加水分解性、柔軟性、押出加工性が改善。締結レスによる金属配管とゴムホースの一体樹脂化により60%減の軽量化とコンパクト化、漏洩防止、コスト低減を可能とした。さらにデュポンのブースでは溶接工程レスへ樹脂ボディマウントの加硫接着も紹介され、樹脂製「トルクロッド」、「エンジンマウント」〔写真17〕を並べた。新開発の加硫接着剤は架橋剤、加硫促進剤の導入による反応ガス低減で金型の汚染性低減とウエルド強度向上を実現。

写真16

写真17

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