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ひもじい顔は百害



ひもじさ〞が顔に出ると、まともな仕事は巡ってこない


物欲しそうな顔は百害あって一利なし


 「当社はどんな仕事も断らない」という受注型企業は意外と多い。ノウハウ蓄積を目的に、同業他社が敬遠するような技術案件にも挑戦する企業がダイカスト業界にもある。コストが厳しい云々は二の次で研究開発の一環と捉えているのだ。だが一方で単なるシェアアップや増収目的でどんな仕事も引き受ける姿勢だと疲弊する。受注段階で利益がほとんどないにも関わらず、後で取り戻すといってそれができたケースは少ない。

 こうしたその場しのぎを続け、業績不振となった企業はダイカスト業界にも散見される。これら企業の多くが他社との横並び意識が強い。同業他社の表面的な姿勢だけを真似したり、一般的な情報や受け売りを鵜呑みにし、そのまま実行に移して後の祭りとなっている。自社の事業特性に合わせ、どうすべきかの視点が経営陣に欠けており、目先の利益に流されやすい共通点がある。そのため業績低調が続くと責任もなすりつけ合い、当事者意識が希薄になる負のスパイラルに陥りがちだ。

 今は亡き日本映画界のスーパースターだった高倉健さんが売れない後輩役者に口酸っぱく言っていたエピソードがある。「仕事が欲しいからといって、物欲しそうな顔は絶対するなよ」。言われた後輩俳優からすると「そんな殺生な」と思ったという。受注仕事の役者は基本待つしかない。その上、売れず暇とあれば、お声がかかればなんでも食いつきたい。「貪欲なことのどこが悪いのか」とその当時は思ったと述懐するが、今になりこう解釈したという。「ひもじさが顔に出ると足元を見られ、まともな仕事は巡ってこない」。

 昔の芸能界では発注側も足元を見て、無理な仕事を押し付けた上にギャラもほとんど払われないということが多かったらしい。発注側の言い分は「テレビ、映画に少しでも顔見せできたのだから文句ないだろう」。溺れる者は藁をもつかむ、ことを見越して、売れない役者をボロ雑巾のごとく使い回すことがあったようだ。日々の生活に困るようでは才能も発揮できず品性も落ちる。貧すれば鈍するで、こうした表情では売れるわけがない。物欲しそうな顔は百害あって一利なし、ということだろう。これは企業にも当てはまる。

 前述のような姿勢だとユーザーから足元をみられ、軽く扱われやすい。困っている人ほど平常時では相手にしないような話も信じやすく、正常な判断力も失われることになる。昨今の企業経営の足かせにもなっていると指摘されるのが、「あれも、これも」思考だ。自信がないため、「あれも、これも」になり、自ら負担を重くしているケースが多いといわれる。自社として何を重視して、どこを捨てていけるかが明確になっていないため、自縄自縛になりがちだ。


2022年2月日配信