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中小企業の強み


需要は大艦巨砲型と小規模・分散型の2極化へ


「需要があるところへ行く」ことが20世紀の成功法則ではあったが、「21世紀は需要規模で戦略を組み立てる時代は終わった」とした意見が最近は出ている。需要がなければ仕事にならないのは当然のことだが、ここでいう需要とはその規模に応じたやり方を指している。需要が大きくあれば、そこに企業が集まり過当競争化する一方で、需要が小さければそこに目を向ける企業も少ないのは自然の理でもある。このため「需要が伸びない、または需要が小さいところで採算性をいち早く合わせられる仕組みを作った企業が勝つ」といわれ始めている。取引において中小企業は弱者の位置付けではあるが、これからのコロナ時代は「中小企業ほど躍動できる市場環境になる」可能性がある。

需要の小さなもので頻繁なバージョンアップもない、「アナログ的もの」が世の中にはある。数は少ないが寿命が長く、忘れた頃にポツポツと受注があるといったもの。こうした受注品を大事にしている中小のダイカストメーカーが日本には少なくない。小規模なダイカストメーカーが今でも健在なのは、この小さな受注をポツポツと積み上げて成り立っているためだ。これら企業の経営者の考えをまとめると以下のようなコメントになる。「みんな見向きもしないから競争もない」。そこにはしたたかさも見え隠れする。

モノづくりの生産ラインは「大艦巨砲型と小規模・分散型の2極化へ」という流れに入っている。この流れに先駆け、日本は近年その最前線におり、自ずと多品種少量を効率よく、低コストで供給できなければ生き残れない次元に突入した。コロナを機に日本だけでなく新興国でもこの方向に進んでいくことが予想される。海外進出しても日系同業他社だけでなく、大型投資による大規模ラインを持つローカルメーカーとの競合も大変激しい。中小規模の日系ダイカストメーカーは日本国内以上の低コスト競争にさらされており、「需要はあってもそれを受注できる確立は徐々に低くなっている」。

中小企業が多い素形材は産業の最も基の部分で、要素的技術でもある。本来一つの業界に関わらず、多岐にわたる業界へ関われるポテンシャルがあり、用途は無限ともいえる。クルマ向け生産技術はロボティクスにも精密機械にも応用でき、単純なボリュームゾーンが存在しないなかでは小回りのきく中小企業の方が変化へ即応しやすい。ある程度のボリュームゾーンがないと採算が合わない大手と違い、ニッチ需要でも採算が合わせられるのが中小企業の強みだ。例えれば大量の餌がないと生きていけない大型動物と、極端にいえばプランクトンでも栄養素として取り込める小動物といった感じにも似ている。

今後は中小専業ダイカスターのなかでも規模の大小に関わらず2極化がさらに進むだろう。対応力において同じ業界にいながらも「別の次元にいる」といった現象が近年は起きており、自社の強みを明確化し、照準を定めた受注を意識して行っているダイカストメーカーが強さを発揮している。中小に至っては多様な受注に対応したばかりに経験値を整理できす、宝の持ち腐れになっているケースも大変多い。経験をノウハウに昇華し、自社の強みを明確化できている企業に受注が集中する流れが強まっている。

中小企業の強みは大手が真似できないスピード感と小回りの良さ。大手のような正攻法ではなく、ゲリラ戦法の発想と行動がとれることが強みだ。また中小は従業員数が少ないため方向性さえ定まれば一致団結しやすい利点もある。「専門性の分離がイノベーションを妨げている」とした説があるが、その点、中小企業は大手と違い、「専門性の分離ができない」ことが返ってプラスに働く可能性もある。経営者の見る方向が定まっているか次第で力を結集した体制が整いやすいのが中小企業だ。良くも悪くも鍵となるのは経営者で、その考え方、捉え方次第で中小企業は大きく変わる。

低成長のいまの時代は今まで以上にスペシャリストが求められる。深掘りすることで新たな需要が生まれる流れが始まっている。あらゆることに手を広げるビジネス形態は企業規模が比較的あり、体力ある企業が有利だ。手を広げるといってもただ広く浅くでは昔の形態でしかなく、現在は広く深くの方向に進んでおり、大手の一部企業はまさにこの流れに舵を切っている。

一方、中小企業は狭いところをさらに深堀りすることが求められ、また大手企業が入り込めない領域でもあり、さらに大手が求める協力企業の在り方だ。中小企業でも欧米の企業は出来ること、出来ないことの割り切りがあり、またユーザーもそれ以上を求めない傾向が強い。期待しないのが根底にあり、出来ないなら他社へ回すだけといったドライな取引関係が成立している。日本の土壌で欧米と同じことをする必要はないが、小規模企業ならなおさら自社の長所だけを伸ばしスペシャリストを究めることが最適解だろう。技術は人並みだが営業面は得意というなら、御用聞きに徹し、製造は外部等に任すといった、「トコトン得意分野を伸ばす」割り切りも必要だ。この取り組みを継続することが他社にはない独自性・オリジナリティを生み出すことになる。


2020年12月18日配信