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設備機材の多様化進むダイカスト業界


ダイカスト事業者減でも設備等の業者は増加中


1955年の国内ダイカスト生産量は年6千㌧に過ぎなかったが、今では百万㌧水準に達している。重量だけをみれば21世紀に入り足踏み感があるが、軽量化にともなう薄肉複雑形状化が飛躍的に進展するなかで100万㌧前後を維持していることに、日本のダイカストの底力と可能性が垣間みえる。

各社とも「受注の質」は大きく進化、受注量の推移だけでは判断できにくいのが昨今だ。ダイカスト生産量の大半は自動車向けが占めるが、用途分野や製品種類はまさに多種多様で、どの方向にも自由自在にいけるだけの潜在力を秘めている。

ダイカストは素形材業界のなかでも特に設備投資への比重が高く、莫大な維持費用がかかる装置産業で「底なし沼のような金食い虫」だ。品質、安定供給など「当たり前」とみられることを維持するのに多大な労力とコストがかかり、近年はさらにその傾向が強まっている。

IOT、ロボット、AIの進化にともない自動化の新市場が形成されつつあり、品質管理面における画像診断等の検査機器ニーズもその一つ。こうした新たな設備需要が生まれるなか、ダイカストメーカーの事業者数は1990年頃をピークに減少傾向にある。

一方、設備等の周辺業者は市場規模に比べ多く、今でも増加中だ。他素形材関係者からすると「ダイカストは生産プロセスが複雑なため、非常に重層的な構造。このため事業者数だけで市場規模を捉えられない特殊な業界」とし、参入する設備業者が後を絶たないのもこのためだ。

ダイカスト製品の品質要求度の高まりから多種多様な設備機材が近年急増し、設備機材のニーズは高まりをみせる。一方で導入側のダイカストメーカーはこれら一つ一つに目配せ出来なくなっている。このため設備機材の機能やコストが多少違う程度ではダイカストメーカーは振り向かず、なじみの業者から購入する傾向が一段と強まっている。その企業の背景を知っている、いわば認知度が高いことが安心感につながっているのだ。

あらゆることがスピード化しているが、ダイカストに限っては新規の設備導入に対しては保守的で大変慎重だ。「新しいもの(設備、副資材等)を使うのは面倒だし、怖い」といった声や「設備業者が提案する商品のなかには機能が過剰で、使い勝手が悪く、中小企業に見合ったものが少ない」と不満を口にするダイカスト事業者も多い。

ダイカストの抜群の量産性は少しの不良発生もメガリコールにつながる大きなリスクを孕む。それだけに設備等の生産体制のわずかな変更にも細心の注意を払わざるを得ない。このため「既存の体制(設備等)をあまりいじりたくない」といった声がダイカスト事業者には多い。「面倒な上、もし結果が出なければ」とした疑心暗鬼が新たな設備機器類の導入に尻込みする理由の一つだ。

品質、コスト等で多少の違い程度なら「つき合いのある業者から調達したい」というのもこのためで、現在付き合いのある業者の対応によほどの不満がない限り、新規業者が入り込む余地は少ない。ユーザーにとって大きなメリットが見込めないと新規参入組は老舗の設備業者と戦えない。さらに新規参入組に対し、ユーザーは国内ダイカスト業界にどっしり腰を据え取り組んでいく体制なのかどうかも見極めている。古くからある設備業者が信頼されているのもこの辺りだ。

IOTやロボットさらにAIの台頭により、導入期、成長期、成熟期、衰退期という4段階のステップを示す製品ライフサイクルがシャッフルし、この4段階が混在化するのが今後の市場動向になる。経験則が通じない混在化市場に対し、ユーザーの心理はなにより安心感を求める傾向が強い。

「いいモノは自然に売れる」ことはなく、営業等の販売促進努力があってこそ。市場への働きかけ次第で製品・自社商品の可能性は大きく拡がる。いい製品・商品だから売れると判断しがちだが、そこには広報、営業活動を通した販売促進の絶え間ない努力が大きく作用している。それだけダイカスト業界でモノを売るということはやさしくなく、どれだけ継続して働きかけられるか、根気との勝負だ。

                      2020年4月8日配信