人とくるまのテクノロジー展2019 見学レポート ③樹脂及びCFRP、CNF成形編(4)

トヨタ紡織、樹脂成形の冷却循環水浄化システムを提案開始

トヨタ紡織は参考出品として冷却循環水浄化システム「Weets」〔写真27、28〕を紹介した。人と自然に優しいをコンセプトに、主に樹脂成形部品を生産する設備や金型の冷却循環水配管内に堆積したスケール(水垢)の除去と防錆効果を目指して独自開発したシステムだ。活水器は水コンディショナー、殺菌剤、トルマリン(水を活性し配管を清浄)等が備えられ、これによりスケール除去及び防錆効果で冷却能力の回復と維持、冷却水の殺菌でスケールの付着防止、活水効果でスケール除去の促進を行なう。2018年に同社製造ラインで運用し、効果が高いことから今後、トヨタグループ内企業を中心に提案を開始する予定。


またトヨタ紡織のブースでは新型クラウンに初採用された「高耐衝撃軽量発泡ドアトリム」〔写真29〕も展示した。世界トップクラスの同社の高耐衝撃樹脂を衝撃改質材として添加したもので従来比20%の軽量化を実現した。同樹脂を改質剤としてポリプロピレン(PP)に添加することで剛性を維持したまま衝撃強度を向上させられる。構造的にはポリアミド(PA11)とPPがナノレベルで分散制御された「サラミ構造」を形成。これにより衝撃時にサラミ構造中の柔らかいゴムが、効率的にクレーズ(微少なひび割れ)を発生することでエネルギーを分散し、衝撃を吸収する仕組み。またPPへの添加は予備混錬なしに成形時に樹脂ペレットと混ぜ合わせる手法、ドライブレンドで対応可能だ。トヨタ紡織はこの高耐衝撃樹脂を今後、三井化学の製造技術、販路を活用し三井化学製改質剤の一つとして自動車をはじめ、各産業向けでの採用拡大を目指す。

写真27

写真28

写真29

金属からの代替狙う東レ、住友化学、欧州企業の樹脂成形品

このほかの樹脂関連ブースをまとめて列記する。東レはレーシング用NISSAN LEAF NISMO RCの「CFRP製モノコック、前後共通サブフレーム、ルーフ」〔写真30〕を展示した。高出力モーターが2基となり、バッテリー容量も増加したため、さらなる軽量化が必要となりCFRP(炭素繊維強化樹脂)を多く採用した。オートクレープ製法でCFRP化。モノコックシャシー(147・5kg)は構造解析を行ない、CFRP補強を施すことで直径38mmに小径化し薄肉化も実現。前後共通サブフレーム(53 kg)は25%の軽量化に貢献、前後共通とすることでコストダウンを図った。さらにクラッシュボックス(21・6 kg)になる。外装部品のルーフは量産性を見据え、VaRTM成形法を採用した。プリプレグ材やオートクレープ設備を使用しないVaRTM成形法は複雑ではない形状の部品においてコスト抑制を図れる。

写真30

住友化学は金属に比べ1/10の軽量化ができるとして低比重で高性能な高濃度ガラス繊維強化ポリプロピレンによるHVモーター用「冷却パイプ」〔写真31〕を披露。液晶ポリマー(LCP)を使用することで冷却パイプに求められる薄肉、高強度、寸法精度、さらにデザイン自由度が可能としている。LCPは薄肉での強度・弾性率が最も高く、流れ方向の線膨張係数はエンプラの中でも最も小さい。さらにエンプラ(熱可塑性樹脂)の中で最高の耐熱性を持つ。

写真31

意匠性のある外装部品へ向け、ダイセルエボニックは耐衝撃性ピアノブラックアクリル樹脂「プレキシグラス」による「ラジエーターグリル」〔写真32〕を展示。非常に優れた耐衝撃性、耐候性、意匠性を持ち、耐熱性やストレスクラッキング性も向上。用途はフロント・リアのトリム部品やドアミラーハウジング等。

写真32

ダイキョーニシカワのブースコンセプトは「こんなとこまでプラスチック」で今回の展示会ではランプレンズ一体となるパートレスデザインの「次世代バックドアモジュール(コミュニケーションパネル付き)」〔写真33〕を披露した。材料ブレンド開発から製品設計・開発、製造まで手掛ける総合樹脂メーカーの同社はスチール比で20%軽量化した樹脂製バックドアモジュールを量産するが、同社は約20年前にインテークマニホールド、オイルストレーナの樹脂化を国内で初めて実現した実績があり、構造部品の樹脂成形化で先頭集団を走る。多種材配合システムと特殊混練スクリュによる材料混練工程とINJ成形装置を融合した独自成形工法を開発し、部品の樹脂化を具現化している。さらに鉄の5分の1の重さで5倍の強度を持つ植物繊維由来の新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」を添加したCNF複合材の2025年実用化も目指している。

写真33

フランス大手部品メーカー、ヴァレオは複合樹脂材料を用い一体成形を実現したメルセデス向け「軽量ボルスタ―」〔写真34〕を展示。2018年から米国で1700t射出成形機により生産、年産32万個になる。従来の鉄製に比べ30%の軽量化が可能で、鉄で課題だった耐食性問題も解消。さらに衝突要求に対応できる軽量高強度樹脂材料(材料密度1・7g/㎤)により鉄製ボルスタ―と同等の衝撃吸収能力を備える。具体的には連続繊維強化ポリプロピレン及びポリアミド6/66を用いたオルガノシートにより一体成形を実現。予備成形不要の繊維強化樹脂(ワンショット成形)でコスト競争力向上が図れ、構造部材でありながら外観品質も向上でき、カバー等の廃止が可能だ。

写真34

   4