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特別寄稿

Cast-Designerのギガ・キャストとSmart Runner 

Cast-Designerのギガ・キャストとSmart Runner
ダイカストは新しい時代へ

鹿取事務所 鹿取貞夫

ギガ・キャストとは

 

テスラ社のEV車は70~100以上の部品の一括鋳造で製作されていることは広く報道されている。ギガ・キャストはリアに止まらず、ミドル、フロントにもそれぞれに及びつつある。ギガ・キャストによるコストの大幅削減効果については議論の余地がない。個々の部品の鋳造、それらの組み立てのための時間と労力の大部分が無くなる。


設備投資の大きさ、輸送の制約などから日本での実現は難しく、おそらく海外での製作、組み立てに依存するだろうと見る向きもある。今日の遅れは技術発展の遅れでもあり、国内のEV車需要の多くは海外からの供給に依存する結果となる。ギガ・キャストはEV車に限ったことではないので、日本の自動車産業の一部に存亡の危機を招く虞れもある。

ギガ・キャストは100%のダイカストを意味するわけではない。プレスの要素、付加部品の溶接を含めた総合工程である。すでに公表されている諸例は、それぞれの限界を超えてはいない。未だ、進化の余地がある。この製造手法は、その成果全体を見ればむしろ在来法より容易と言っても言い過ぎではないかもしれない。

ギガ・キャストのシミュレーション

 

Cast-Designerはダイカストのシミュレーションを行うソフトウエアである。後述するが、溶接のシミュレーション・ソフトウエアでもある。この2つのシミュレーションは、自動車に限らず、世界の船舶、車両、航空機、掘削機械、原子力発電、風力発電等の分野で利用されている。 限界まで巨大化されたギガ・キャスト製品が、特定の設備によって正常かつ経済的に生産できるかどうかは、その製造方案を計算によって確かめる必要がある。

計算は設計CADデータがメッシュ化されたFEM(有限要素解析)に対して行う。この時、メッシュのサイズの大きさ、細かさが計算時間と結果精度を大きく左右する。時間と精度は矛盾する目的ではあるが、Cast-Designerの場合はこの矛盾を大きく緩和する手順と手段を提供する。

Cast-Designerの新機能Smart Runnerはゲート・システム設計の負荷を大きく節減する。ギガ・キャストのランナー設計はその対象製品が巨大であり、複雑である。3次元的に配置される非常に多数の湯口に適切なランナーを配置するには、相当のスキルが必要とされる。スキルを備えていても、何時終わるとも知れない試行錯誤を経なければ完成達することがない。

Smart Runnerはギガ・キャストのシミュレーションのためのランナー設計を10分で完了する。これはシミュレーションのためのランナー設計である。最良の結果をCAD(STL)に変換し、これを基に微調整を加えて実際のランナーを完成する。Cast-Designerにはフリー・デザイン機能がある。


Cast-Designerで設計された3Dランナー・システム 

製品の物性確認

 

工業製品の品質不良が多大の損失を招くことが多発している。ギガ・キャストの大型鋳造製品の不良を防ぐには、鋳造方案の段階でその品質を確認する必要がある。鋳造後の製品の品質検査の後改善を図るのでは手遅れである。

ギガ・キャストの場合は大型複雑であるがために、製品品質確認にも多大の時間が費やされる虞がある。 Cast-Designerには、製品の応力、残留応力を迅速に解析できる機能がある。製品だけでなく金型の応力、残留応力のシミュレーションができる。そのうちの一つ、製品の基本的応力解析オプションは使い易い。メック・ソルバ・オプションは金型ギャップの可能性も把握できる。

CAD段階での品質解析は気孔を考慮していない。気孔を含む製品に対する環境外力の影響も予測しておく必要がある。CAD上良品と判定されたものに物理的補強が必要な場合がある。

ここまでは、ギガ・キャストに集中して記述したが、Cast-Designerは壁厚さ0.15mmのカメラ部品などのホットチャンバ・ダイカストのシミュレーションも高い評価を得ている。製品のサイズ、精密さ、企業の大小、コールド、ホットの機種を問わず、Cast-Designerのシミュレーションの経済効果は高い。

Cast-Designerのギガ・キャスト・シミュレーション 

方案の最適化

 

鋳造の諸条件(環境条件・パラメタ)を様々に変化させた無数の方案を比較し、その中から最適方案を推定する手法がある。Cast-DesignerではGA法(進化論的最適化)を用意し、独自のオプチマイザー(目的は3つ程度に設定)で選択を支援している。しかし、多数の方案の解析は当然に多大の時間と労力を必要とする。巨大、複雑製品ではなおさらである。

実務上、強く勧められるのが少数の方案条件を対象にしたDOE(計画実験法タグチメソッド)である。一般にExcelを使った直交表作成と計算が普及しているが、Cast-Designerはそれより簡易な直交計算でDOEを実行できる。結果は平行座標チャートで示される。この他、研究用に限られるが、PSA(粒子法)および微細構造解析の方法も提供できる。

Cast-Designerの最適化法

溶接のシミュレーション

 

我々にはCast-Designer Weldingというソフトがある。日本での市場開発は準備中である。

Cast-Designer Weldingは自動車、車両、船舶、掘削機械、原子力発電、風力発電、パイプ構造などの大型構築物の溶接シミュレーション・ソフトウエアである。 大型構築物の溶接欠陥は、後日巨額の修理、事故処理のコストを惹き起こす危険性がある。これを未然に防ぐことは、絶対必要条件である。現状では、それを高度の技術経験者の経験のみに依存しているのではないのだろうか。大型構造物を隅々まで物理検査することも可能とは思えないし、その労力と時間はコストを大きく増大させる。肝心の技術者も不足している。

Cast-Designer WeldingはFEM(有限要素解析法)を使って、溶接ラインをシミュレーションし、応力、残留応力(変形)を予見する。他の同種のシミュレーション・ソフトウエアが同様の解析に必要とする時間は、数週間、数か月であっても、Cast-Designer Welding数時間である。

Cast-Designer Weldingを使ってEV車のバッテリー・ケースの溶接工程を検討 

製造業界の新編成

 

日本の自動車以外の多くの製造産業では、未だに2次元CADが主流のようである。FEM解析を必須手順とすることが困難な事業者が少なくない。

EV車関連の開発事業の世界的な合従連衡が見られる。系列的タテ型ではなく、独立企業がヨコ型の連携をする。欧米では自動車生産に多数のOEMが関与する、いわばヨコ型の生産連携である。そこでは、OEM間の熾烈な生き残り競争によってユニークな開発が進む。日本のタテ型系列では生産事業の安定的継続が保障され、固定化される。親会社や他社が使っている、実績のある機械、ソフトウエアさえ使っていれば、仕事は順調に流れてくる。世界市場からの圧迫がこの慣習の早急な解消を迫っている。

企業は積極的に新技術を導入し、技術者の育成強化をはかり、産業の再編に備える必要がある。Cast-Designerは日々の効果だけではない。その豊富な技術背景の学習を通じて、企業の将来を保証する知見豊富な技術者育成の手段でもある。我々の力は乏しいが、努力は惜しまない。

(次号へ続く)

 

資料提供

C3P Software International Co.,Ltd.

New York, Hong Kong, Guanzhou.

https://jp.cast-designer.com/

2023年ダイカスト新聞9月30日号掲載

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