理念や軸が定まる


写真はトヨタのTNGAによるFF系ミディアムクラスのプラットフォーム

コロナ時代こそ軸(プラットフォーム)構築が重要

理念や軸が定まると「やるべきことと、やらないことが見える」というのはドイツの大手鍛造メーカー、ヒルシュフォーゲルだ。「今の時代、ユーザーの設計にただ従って製品提供するだけでは疲弊する。これは当社だけでなく、いずれユーザーにも跳ね返ってくる」と話し、自社の事業特性に合わせた体制を構築する。

「当社の戦略は技術開発を中央(ドイツ)で一括的に行なうことで世界共通の基準(グローバル・プラットフォーム)を保ち、それらをローカルのニーズに合わせる」。軸(幹)となる拠点を明確にすることで枝葉はいかようにも調整でき進化できる、といったドイツならではの合理性から導き出したものだ。

こうした動きは日本企業でもあり、ダイカストではリョービが代表例で、近年の同社の取り組みをみるとわかる。いま叫ばれているデータ化の重要性についても同社は2000年頃から他社に先んじて体制整備へ着手。2010年頃には国内外のデータ収集体制を確立し、そのデータと並行しグローバルで具現化する生産体制も整えた。技術レベルをグローバルで統一・標準化することを目指し、核となる金型部門で2013年、日本に金型設計・生産を集約化。海外各拠点の技術を支える金型のマザープラントを広島に置いたことでモノづくりの思想統一と情報一元化ができ、金型一貫体制による短納期対応を可能とした。

またトヨタの全方位戦略も多くの人が知るところだろう。地域、民族性に合わせあらゆる車種をつくっている。人的資源や資金が分散することは効率的とはいえないが、この姿勢を持ちながら経営戦略をとっている。サプライヤーからすると泣きながらついていっている面が強いが、それでも従うのはトヨタなら大コケしないといった安心感があるからだ。そして世界トップクラスの生産台数を誇ること。どんなに厳しい要求でも、泣きながらも従うサプライヤーが多いのは数を制しているからだ。数は求心力なのだ。

完成車各社が投入を急ぐグローバル・プラットフォームも軸といえる。あらゆる要素を吸い上げ最適化したノウハウの集合体で、データの蓄積をはじめ地道に積み上げていった土台があってこそできる。「軸がぶれない」とよく褒め言葉で使われるが、そこに至るには途方もない積み重ねとそれに裏打ちされた自信と覚悟がいる。

「急がば回れ」という諺通りに、腰を据えた取り組みがなければできず、他社をみて真似るだけの姿勢では到底できない。これを踏まえると軸(プラットフォーム)構築はどの企業でも出来ることではなく、モノづくりに真摯に向き合っている企業しか作れないものといえそうだ。環境が激変するなかでは周りの流れに翻弄され、自分を見失いがちになる。だが「軸(体制・要素技術)は何か」を明確に出来ている企業は強い。これは発注先、受注先だけでなく、自社の従業員にも安心感を与える。わかりやすく、共有しやすいのが大きなメリットだ。軸が定まっているか否かをユーザーは意外と敏感に嗅ぎ分ける。軸が定まっていないかのようにみえる企業の提案に耳を貸すほどユーザーは甘くない。

経営環境は必ずしも効率的とはいえないことや、コストで二の足を踏む局面も多々ある。ただ、ここだけは譲れないという理念や自信となる軸のようなものがあれば、それに沿って経営戦略を立てやすく、従業員も従いやすい。過去から「理念なきことは羅針盤がない船と同じ」といわれたが、今ほどこれが当てはまる時代はない。理念や軸を決めるのは経営トップで、その力量が試される。軸が定まることは自信につながり、企業体質の柔軟性も生み、環境変化に対応しやすい。

軸を定めるには目指すべき目標が必要だが、経営者は今を起点に10年後の姿を想像しがち。それに対し、「理想像ありきで10年後にどうあるべきかのビジョンが大事」と話す専門家もいる。10年後の理想とする姿を逆算して今やるべきことを考えていくといった手法だ。欧米企業に比べ、ボトムアップ型の日本企業はこうしたやり方があまり得意ではない。ただモノづくりの大変革期にある現下は「現場レベルでいくら製造工程の改善を積み重ねても、過去の延長でしかない」とした意見も出始めており、「IOT化・自動化をはじめとする標準化やコロナ禍にともない、利益に直結しない可能性もある」とした指摘も高まっている。現在だけを起点に物事を考える習慣を見直す時期にきている。

                             2020年7月22日配信