人とくるまのテクノロジー展2019 ①ダイカスト編(3)
リョービ、次世代バッテリーケース、ボディ部品で可能性追及
リョービは自動車の軽量化と電動化に合わせたアルミダイカストの新用途として開発中の「バッテリーケース」、ボディ部品「リアエンドポスト」、ウォータージャケット部の「抜き勾配ゼロ及び二重構造」を披露した。軽量化と電動化で新たな部品需要が生まれているなか、他素材・成形メーカー各社もこの新需要奪取へ激烈なマルチマテリアル競争が始まっている。そのなかでリョービは対スチールを意識し、同展示会見学者の多くを占める完成車メーカー及びティア1の設計者にコストはもちろん、“アルミダイカストだからできること„を訴えた。
ブース前方に陣取ったのは今回の目玉となるバッテリーケース〔写真3〕で、砂鋳物で製作した3タイプを出品した。TYPE1はPHV用として開発中のもので、底板付き一体型だ。サイズは1220×550×150mmで、ダイカストマシンだと同社保有最大機となる3500t機で製造可能だ。
そして最も低コストで抑えられる仕様がTYPE3のEV用に開発中の底板なし一体型(〔写真4の手前)で、こちらはサイズが1300×900×150mmになる。
3タイプのなかで最大サイズがEV用に開発中しているTYPE2 だ。底板付き溶接3連品〔写真4の奥)で、サイズが1812×1220×150mm。TYPE1の金型埋め子違い品を溶接することでケース容量を拡大した。接合するため、3タイプのなかで最もコストがかかる仕様となる。このサイズを一体成形するとなると型締力1万t位の鋳造機が必要だが、現在の世界最大機は4400t級のため、超大型ケースをアルミダイカスト化するには接合を前提にどうコストを抑えられるかの課題が残る。
ただ一方でアルミダイカストだからできる優位性もある。TYPE2の底板の裏側〔写真5〕をみるとわかる通り、流路を設け冷却効果を引き出せる形状にできる。「アルミダイカストはそれだけで放熱性があるが、そのうえ形状自由度もあり、放熱・冷却に向けた設計がしやすい」(同社)とし、ユーザーの設計・開発陣に訴えていく方針だ。
バッテリーケースだけでなく、モーターケースの進化にもアルミダイカストが大きく貢献することを示したのがウォータージャケット部の「抜き勾配ゼロ及び二重構造」になる。モーターケースの冷却性能均質化と温度コントロール向上を狙ったのが「抜き勾配ゼロ」〔写真6〕だ。ウォータージャケットの容積変化が極小化されることでモーターの発熱を均一に冷却可能で、外径の小径化など駄肉削減で軽量化、後加工工数削減にもつながるという。
一方、モーターケースの一体化、剛性向上を目指したウォータージャケット部の「二重構造」〔写真7〕はダイカストのアウター、インナーを接合(FSW、レーザー溶接等)する仕組み。冷却水路の設計自由度が高く、モーターケースと減速機ケースの一体化など複雑形状に最適としている。
次いでボディ部品のアルミダイカスト化として初披露するのが「リアエンドポスト」〔写真8〕だ。深入りリブの配置により、ねじり剛性を向上させ、鉄からの素材転換を狙う試作品だ。合金はボディ・シャシー部品用に同社が独自開発した高延性合金「RMH-T」を使用。既に欧州では先行してアルミダイカスト化が始まっている部品だが、日本ではまだ採用されていない未開拓な部分になる。同社は「素材転換において日本のユーザーに提案するには、まず現物をみせてイメージを膨らませてもらうことが大事」と捉える。
ボディ・シャシー部品として米国拠点で製造する「フロントサブフレームASSY」(6・5kg、2個取り)〔写真9〕はホンダ・アコードUS(2018モデル)で搭載。3500t機により鋳造、合金は高延性の独自開発合金RMH-Tで熱処理T5。月産数万単位に上る。
ボディ・シャシー部品同社が今後の戦略製品の一つと位置付ける領域になる。自動車のEV化が進展すると従来部品の大幅減となる一方、従来の内燃機関車以上に軽量化ニーズが拡がるため、鉄の領域奪取への好機到来でもある。このため同社は2013年から本格的に鉄からの代替化を目指した取り組みを開始。アルミダイカスト化において薄肉複雑形状化、そして肉厚高剛性化と相反する2方向の技術開発に取り組む。
これを可能とするのが膨大なリアルデータを基にしたCAE解析等による最適設計化だ。アルミダイカスト部品の領域拡大へ、同社は裏付けある最適設計化に則った試作品を示し、マルチマテリアル競争といった陣取り合戦を制する気構えだ。