WEB SPECIAL
特別寄稿
ダイカスト部品産業の未来
〜ダイカストは新しい時代へ〜
ダイカスト部品産業の未来
鹿取事務所
鹿取貞夫
ダイカスト部品の需要構造変化
EV生産への日欧の対応が先延ばしに傾いている。巨額の投資と既存設備の償却コスト、大型鋳造機の設置難、市場のデマンドの弱さが原因である。しかし、その間も複合ダイカストの技術は進歩を続け、数千トンクラスの機械の改良、増産は続いている。EVの市場動向とは関わり無く、自動車産業のギガキャストへ転換はもはや避けることができない。部品の複合鋳造、自走組立ライン、剛性の向上、材料と労力の節減、そして何よりも時間の短縮が測り知れない利益を生むからである。
部品の複合鋳造が進み、しかもOEM企業による内製化が進み、サプライチェインの変化が起きれば、部品メーカーの多くは生存基盤を失う。新しい需要を誘い出す製品の開発、幅広く多種の部品への素早い対応が可能な体制を整えなければならない。
イノベーションはスピードが最重要
新製品の開発は時間との闘いである。新しい、低コストの部品を求める顧客の設計に即刻対応し、自らも積極的に多数の提案を産み出して行かねばならない。実行可能な方案を得るためには、鋳造シミュレーションの高速化と高い精度は絶対的必要条件である。激甚な競争下で、方案検討に多大の時間と労力を費やすことはただちに敗北を意味する。
CAST-DESIGNERはTeslaをはじめとする世界のEV開発と生産に参画し、ギガキャストには豊富な経験を持つ。複雑なモデルに対応するには、解析ソフトウエアとしての基本機能が高度でなければならない。それに加え、今後は製品に関する責任が鋳造段階にまで及ぶ可能性がある。ダイカスト企業は製品の物性の検証を求められる。Cast-Designerの物理解析機能はそれに広く応えることができ、最短時間で方案検証を完成する。
CAST-DESIGNERはシミュレーションで方案をほぼ完成
CAST-DESIGNERの新バージョンは旧バージョンからのCAD機能、メッシング機能と解析機能の強化、高速化がはかられている。OEM向けプログラムに著しい強化がある。しかし、OEM、部品メーカーを問わず解析結果をCAD部門に戻して方案を再三修正すれば工数が無限に増える。CAST-DESIGNERのCAD機能、メッシング機能はシミュレーションと同時に、理想に近い方案を完成させ、手戻りを最小限にとどめる。
Cast-Designerの概要
初期段階のDFMクイック解析、ガイドに従ってのゲート・システム設計、ユニークで高速のメッシング、熱流、凝固、微細構造、ストレスの解析、メッシュ・データのCADへの変換で、End to Endのソリューションを提供する。高圧、低圧、重力、インベストメント等全ての鋳造プロセスをサポートし、鋳造欠陥を予測する。たとえば、収縮ポロシティ、ガス・ポロシティ、エア巻込み、表面欠陥、残留ストレス、変形。シミュレーションは殆どの場合3時間以内。鋳造技術者は設計の早期段階で正しい判断を下し、品質と収率を向上させ、加工コストを節減できる。
CAST-DESIGNERのコア技術
FVM ソルバーとFEM ソルバー が同じメッシュ・システムの中でフルに連動する。熱、フロー、ストレスおよび微細構造ソルバーがフルに連成される。熱ストレスとメカニカル・ストレスの両方に対するストレス・シミュレーションに適用される。 組込みCADカーネル、ゲート・システムの智識べースのフル・パラメトリック設計で、冷却システムと物理コアの影響を高精度で考慮したモデリングを完成させる。
非常に強力なFEM3D六面体および四面体メッシュで、CADの欠陥に対処する。節点結合金型自動アセンブリ、混合メッシュをサポートする。 ギガ・レベルの大型鋳造部品や複雑な金型アセンブリに適した並列メッシング能力を持つ。
強力な数値流体力学 (CFD)、FVM ベースのソルバーは、表面張力効果、重力と組み合わされた粘性せん断応力が浮力流をもたらし、乱流下の運動量の拡散状況を大幅に強化するなど、フローの計算に高度な機能が組み込まれている。
QUICKCASTでカスティング・システムをフロントで評価
QuickCASTは高速なフロント設計手法である。金属の流れを予測して、ゲート・システム と(鋳造ゾーン の設計を評価する。ポストプロセスまでの設計と評価の繰り返しを予防する。HPDC/LPDC/Gravity(3モード)/Disa鋳造(垂直)/チクソ鋳造、ルーズ・フォーム鋳造等殆ど全てのカスティング工程をサポートする。
SmartRunnerでゲート・システムを生成
SmartRunnerは、最新の自己学習型AIテクノロジーを組み込んだ、Cast-Designerの画期的なテクノロジーである。複雑なランナー・システムであっても、数回クリックするだけで、高品質のランナーが生成される。 (図1)
(図1)SmartRunner
(図2)ギガキャスト
ギガキャスト
CAST-DESIGNERは、組み込みのパラメトリックCADシステムParaCADで 3D付加面を作成できる。複雑な3Dゲートを数回のクリックで設計して、高品質のゲートを作成できる。初期段階で複数の設計プランを短時間で評価できる(図2)。強力なファスト・メッシュ・エンジンは、小さなフィーチャ・スナップと曲率ジオメトリの高精度サポートを備え、鋳造と鋳型の非常に複雑なメッシュを生成できる。128GB RAMのコンピューターで3億個の FEMメッシュ要素を生成できる。混合メッシュ・タイプをカスティングと鋳型に適用して、モデル サイズを節約できる。 フロー・パターン、温度分布、フロー固相率、金属の速度、ガス・ポロシティと収縮ポロシティ、鋳造部品のガス密度、表面品質、最終部品の性能など、豊富なシミュレーション結果を得る。DCS (歪み補正ソルバー) は4~5回の反復後、「オリジナル」鋳造部品に沿う寸法を自動的に取得できる。
Smart Cooling
SmartCoolingシステムは、熱バランスと金属の流れを考慮して高品質の冷却チャネルを設計できる。操作は数回のクリックだけである。半自動で、巨大パーツの冷却システムを簡単迅速に設計する。対象領域を4 つに分割する。さらに最大 24 のサブ領域に分割できる。クイック・ウィザード は熱バランスに基づいて冷却チャネルの直径と媒体の流量を予測し、スプレー熱損失を考慮する。ウオーター・ラインとジェット・ラインをそれぞれ定義する。設計の速度を10倍~30倍加速する(図3)。
(図3)SmartCooling
重力鋳造
砂型鋳造、永久金型鋳造、ティルト鋳造、遠心鋳造、低圧ダイカストの包括的な設計とシミュレーションをする。DISAシステムに対する特別設計のテンプレートがある。非常に便利なライザー設計ツール「スマート・ライザ」によりライザ設計が高速化された。溶湯の注入レートは自動的にコントロールできる。フローと熱計算「フル・カプル」は遅い充填と冷たい金型によるフロー溶湯の温度低下、充填不足、ミスラン、コールド・シャットまたは未熟凝固を予測する。浮揚力がフローを支配する大きなパーツでは、それがホット・スポットと収縮ポロシティの最終位置を移動させる。重力鋳造における大型鋳造部品は、製造までのリードタイムの短さ、特殊合金(スーパー二相ステンレス鋼、高ニッケル合金など)の製造、高い品質要件、安全性、操作の容易さ、長寿命などのビジネス上の問題が常にあり、CAST-DESIGNERの方案設計と解析がこれらの課題を解決する(図4)。
インベストメント鋳造
自動シェル生成機能はインベストメント・カスティングで熱移転、輻射および凝固プロセスに非常に有用である。デワックス解析機能に基づく良好なデワックス設計は製品品質を改善し、エネルギーを節減する。フィーチャ・サイズが非常に細かく、キャビティが非常に多いため、標準的なシミュレーション方法では処理するのが非常に困難である。CAST-DESIGNER は、この種の問題を解決するために、「ローカル/グローバル・モデル」という名前の新しい方法を開発した(図5)。
低圧鋳造
実際の状態をシミュレートするためインレットでの可変圧力入力をサポートし、金属と金型の間の摩擦係数も考慮される。金型の熱バランスは LPDC金型にとって非常に重要であり、業界ではさまざまな冷却チャネルと水または空気のスプレイ機構が使用されている。これら冷却メカニズムの開始時間、終了時間は金型の熱バランス維持に致命的な役割がある(図6)。
(図4)大型製品重力鋳造
(図5)インベストメント鋳造
(図6)低圧鋳造
パーツの排出シミュレーション
排出は非常に短時間で行われるため、静摩擦係数を考慮して排出プロセスをモデル化するする必要がある。凝固+ストレス・シミュレーション、フルモールドまたはソリッド・シェル・モデル、接触圧力を考慮 Cast-Works/CDPE と結合して排出プロセスの排出時間、鋳造温度、鋳造の残留応力、鋳造の接触圧力シミュレーションを行う(図7)。
金型アセンブリ・メッシング
複雑なメッシュをフル3DCADアセンブリから構築できる。これは最高クラスのメッシング技術である。フル金型アセンブリのメッシングは全自動で、ワン・クリックで実行できる。これは手動作業とメッシング時間の90%を節減する(図8)。
他の ファイル形式の読み取り (LS-DYNA、PAM-CRASH など)
自動車衝突シミュレーション用の LS-DYNA3D 入力ファイル形式の読み取りをサポートできる。同じ目的の Pam-Crash も同様(図9)。
(図7)排出シミュレーション
(図8)金型アセンブリ
(図9)後部衝突荷重ケースにおけるフリー・サイズとトポロジーの最適化を組み合わせた個別結果
マグネシウムのチクソ・モールディング: 材料モデルとアプリケーション
せん断依存シミュレーション・モデルが半固体マグネシウムのチクソ・モールディング・プロセスの流動および凝固挙動の分析に有効である。
熱処理
熱処理後の特定の部品の残留応力状態、冶金フェーズの進化と最終的な体積分率、硬度、および部品の歪みを予測できる。多相材料構成モデルを拡散およびマルテンサイト相変態動力学モデルと直接連成する。
リバース・エンジニアリング
メッシュ・データ (STL など) を CAD データ (サーフェスまたはソリッド) に変換する。製品開発、受託加工に速度と便宜を提供する。
まとめ
国内外の合従連衡と海外生産依存によって自社の存続を図ることも可能かも知れない。しかし、それでは日本の国内製造産業は崩壊する。日本の自動車がこれまで「金城湯池」としてきた東南アジアに中国メーカーの進出が相次いでいる。日本の部品メーカーはそれに対応する速度に欠ける憾みがある。「重要なのはイノベーションそのものではなく、イノベーションのスピードだ」という言葉を日本の産業界は聞き逃せない。