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デジタル革命と温故知新

2030年まではデジタル革命、その後に温故知新が始まる

便利さにデジタルもアナログもない!

 2030年までに環境保護を軸に社会課題解決を求める国際公約、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った取り組みが多くの企業で目立ってきた。今後はSDGsに取り組まないと企業経営としてリスクが高いことを認識している企業が増えている証だ。また並行して現下は100年に1度の産業大変革の真っ最中でもあり、2030年までの期間は1から見直していこうというゼロベースの時代といわれる。2030年までにAI及びIOTを活用したデジタル革命の第1段階が終了し、次世代産業界の基礎部分が出来上がるとの予測が出ている。そしてその後の2040年までの10年間ではAI、IOTでは置き換えられないものの価値が再認識され、「昔のことを研究し、そこから新しい知識を見つけ出すこと」を表す温故知新が始まるという予想もある。


 こうした予測に先立ち、例えば電子書籍は既にその予兆が出ている。電子書籍が流行らないのもスマホやPCでは長文を見づらいといったことがある。マンガだと問題ないが、文字だけをモニター内で追うことは疲れが倍増し、非効率だということが実証されてきたのだ。時間が勝負の受験生がいまだに紙の参考書を多用しているのも読みやすさ、便利さという点で軍配が上がっているためだ。


 デジタル化は便利さが最大の売りだが、特に参考書・技術書といった素早く理解することが使命の教材関連においては紙の方が便利さにおいて勝っているようだ。紙に書籍化する作業は印刷、装丁を含め非常にコストがかかる。だが便利さが勝れば、古い手法のものでも残り続けるということだろう。AIやIOTの台頭でなんでも置き換えていこうという流れが増しているが、使えるもの、使えないものの取捨選択が非常に大事といえる。自社内にある有形無形の財産を吟味し、慎重に取捨選択していかないとお宝さえ失うことになる。AI及びIOTの活用はこの辺りを考えながら進めることが望まれる。


 振り返ると1990年代のバブル崩壊による大企業の人員大幅リストラが思い出される。人員削減で短期的には企業利益が確保されたが、ものづくりの継承が寸断され、最後はものづくりの高度化に全くついていけなくなり、事業売却や企業自体の消滅につながったケースも散見された。上場企業にとっては株主の目もあり、株主利益の最大化圧力が強いことも大きいが、この圧力に翻弄され、今後も成長余地のある核となる事業を死に体にしたことは本末転倒といえる。短期利益を追って取捨選択を間違うと自ら滅びる道を選んだことに等しい。ものづくりとは他のビジネスに比べ、一度寸断されると復活できない恐ろしさがある。「継続は力なり」なのだ。デジタル化は必須だが、あくまでこれは補うためのツールという前提で導入していかないと、本来持っている自社の特徴さえ失ってしまいかねない。

2021年6月22日配信