WEB SPECIAL

特別寄稿

アルミダイカスト部品のJIS強度認定化への取り組み 

(株)ダイレクト21


「アルミダイカスト部品のJIS強度認定化への取り組み」


      *(アルミダイカスト部品をニッチ産業からメジャー産業へ、そして業容拡大を目指す)


(株)ダイレクト21

岩本典裕

菊池政男

 ダイカスト製品の95%以上がアルミダイカスト製品で占められ、この殆どはコールドチャンバー方式で生産されている。この方式は溶湯アルミ材には鉄を侵食する性質があるため、ホットチャンバーのように射出スリーブを溶湯炉に漬けると侵食されることから、射出スリーブと溶湯炉を切り離し、冷えたスリーブ(コールドチャンバー)へ溶湯を注ぎ込む方式となっている。

 歴史的に見ても、ホットチャンバーが最初に考案され、アルミ材は苦肉の策でリスクは多いがコールドチャンバーを試したら、それなりの製品が出来た経過だったと思われる。それなりの製品は時代のニーズにより、エンジンブロックやモータケーシングなど主要部品までコールドチャンバーで作るようになってきた。但し、射出スリーブ内で発生する凝固片による破断チル層やスリーブ充填率など素性の悪さが品質のバラツキとなって機械的強度がばらついている。これが、今でもJIS強度認定されない主原因と思われる。参考に亜鉛合金ダイカスト材をホットチャンバーとコールドチャンバーで鋳造し、その引張強度を図1に示す。

図1

参考文献:

日本ダイカスト工業協同組合

1984年研修会資料

ダイカストの先端技術

 図1のデータはホットチャンバーとコールドチャンバーの強度比較をするため、同一 亜鉛合金で鋳造しテストピースを切り出しその強度分布を調べたもので、業界貢献度が高いデータである。

 図1のデータによると強度のバラツキがホットチャンバーは正規分布になるがコールドチャンバーでは3つの集団になっている、A群のように介在物がゲートに引っ掛かって塞がれていればキャビティー内溶湯圧力は所定の圧力まで上昇せず、B群においても鋳巣(ひけ巣、ブローホール)や残留ガスや離型剤残りなど様々な要因が強度低下の起因となっている。これがリスクの多いコールドチャンバーといえる。我々ダイカスト従事・関係者はこのリスクを乗り越えて、ダイカスト製品の安定良品提供を常にしようと努力している。


【展開その1】

  (株)ダイレクト21は15年前にダイカスト部を創設した。創設の精神として、JIS強度認定化を、今まで管理していなかった溶湯充填時の金型内情報の取り込みで不良を判別し次の工程に流さない仕組みを構築しようとした。ダイカスト部品は良品と不良品が存在するが、その判断材料は大半がダイカストマシンの射出情報であり、母なる金型の情報が殆どなかった。そこで1本の検出ピンを金型に挿入し、鋳造中のキャビティー内ガス圧やメタル圧、溶湯温度を検出する複合センサーを開発した。特にキャビティー内ガス圧センサーは鋳造中のガス圧(正圧と減圧)を計測できるもので、単独で金属ガスフィルターとして多くの出荷実績がある。図2にキャビティー内のガスおよび溶湯圧力の測定センサーを示す。

図2

ダイカストの射出波形計測は今やどのダイカストマシンにも装着され、このデータと複合センサー(金型ダイレクトセンサー)のデータを取り込み管理するのは専門的知識を要し、現場で殆ど受け入れられなかった。

【展開その2】

 そんな中、現場を行き来しているとき局部加圧法で苦労していると相談された。その時の条件は加圧ピン圧力:300MPa、速度は中子ポートを使い、高速切替から2秒遅らせてスタートさせるものだった。そこで、圧力補償付き流量調整弁を加圧シリンダーの近くに置き、2秒でゆっくり前進させる方式に変更したところ、安定して動作した。この情報を最大手の自動車メーカに紹介したところ、位置検出要求が出てストローク検出ユニットを開発し、フィードバック機能を追加して新局部加圧装置が誕生した。半世紀以前から局部加圧は存在するが、注目したいのは300MPaである、ダイカストの鋳造圧力が平均70MPaに対して3倍以上の圧力をかけてもバリが出ない、これは溶湯が固まりかけた状態だからである、そもそもダイカストの射出でバリが出るのは、射出完了した瞬間であり、この時は溶湯の粘性抵抗は水と近似であり、パスカルの力が作用するからである。従来の3倍圧を加えられれば内部品質は大幅に改善出来コールドチャンバーのリスクを乗り越えられる可能性がある。

 新局部加圧装置は多くの実績を上げてきたが、コロナ流行の少し前に新局部加圧装置をベースにしたランナー加圧の要望がほぼ同時に2社から入った。基本的には局部加圧はゲートが凝固してからの発進に対して、ランナー加圧はゲートが凝固するまでが勝負となる。加圧圧力300MPaと加圧時間を射出完了から0.3秒遅らせて加圧すると内部品質が向上し製品重量が大きくアップすることが分かった。


【展開その3】

 川﨑工業(株)様はジャッキメーカーとして創業し、生産製品を最大手自動車メーカにティア1として供給している。ジャッキは重要保安部品であり、次なる展開として、やはり重要保安部品であるエンジンマウントをはじめとしたブラケット部品を層流ダイカスト法でT6処理を含め生産されている。特にブローホール対策が必要不可欠で、ダイレクト21が以前開発したソフトPF法をランナー加圧と合体したスーパーダイカスト法を川﨑工業様と共同考案し、国際特許を申請中である。この方式では酸素を製品の直近のランナー加圧ピン先端から供給させるもので金型変更もせず金型の隅々まで入り酸素は効率的に充満される。

 評価に関しては、両社でそれぞれプロジェクトチームを結成して定期的会合と共同テストを実施した。

 特に実体強度を要求される製品からのテストピース切り出しは費用と時間を要し、川﨑工業様が全面的に対応してくれた。この結果は日本ダイカスト会議の論文JD24-28ランナー加圧+PF法による「巣のない高強度ダイカストの量産化に向けた取り組み」で発表予定である。


 概要として、下記新規製品よりテストピースを削り出し、様々な条件で引張強度を計測したところ、従来ダイカスト法に比べランナー加圧法で平均30%スーパーダイカスト法で平均34%(この中に破断凝固片が切断面にあったが、従来ダイカスト法より強度が上回った)強度アップした。

 また、ランナー加圧法の弱点とされる、逆流防止溝からの逆流に付いては、ダイカストマシンのプランジャー後退量など、外部データとモニタリングすることで、確実に管理できるようになった。 

インバータブラケト部品からのTP削り出し位置 

左記製品の引張強度結果 

【今後の展開】

 コールドチャンバーダイカストでランナー加圧とPF法を組み合わせただけでなく、材料(Siの含有量)や離型剤の種類や濃度など様々な限定制約に製法を限ってJIS強度申請をしていきたい。

 最近のJIS化事例では JIS H0523(2020)(Kモールド法)などもあり参考にし下記展開の予定。

1)テストピースのN数を増やし、正規分布の確認をする。

2)製品事例を増やし、同様の確認をする。

3)スリーブ内で発生する凝固片対策を行う。

4)従来はT5,T6などの熱処理などをしていたものを省略できるかの検討を行う。

5)強度保証が出来ることによる、業容拡大の部品用途とその要求品質の対応検証を行う。

6)コストイノベーションの観点から従来のグラビティ、低圧鋳造、鍛造品から転換検証を行う。

◆お問い合わせ先


(株)ダイレクト21

〒252-0318

神奈川県相模原市南区上鶴間本町7-1-1

電話番号:042-705-2431 FAX番号:-2432

mail:diecast@direct21.co.jp URL:http://direct21.co.jp


ダイレクト21の要素技術商品動画

 1.ランナー加圧法       http://youtu.be/59sNMTm-lN0

 2.スーパーダイカスト法 http://youtu.be/4-gxemXZ-ZY

 3.ランナー加圧分断方式  http://youtu.be/_Ei75Ihh1vs

 4.新局部加圧システム   https://youtu.be/SNPms_N4EbQ