人とくるまのテクノロジー展2019 見学レポート ③樹脂及びCFRP、CNF成形編(3)
旭化成、バッテリー部品の樹脂化と独自CNF開発にも乗り出す
旭化成は車室空間のコンセプトモック「AKXY POD」〔写真18〕を展示した。同社が考える搭乗者にとって快適・安全・安心な未来の車室空間を様々な繊維製品や樹脂製品、センサを用いて具現化した。同社は2017年からコンセプトカー「AKXY」を制作し国内外の展示会で披露してきたが、2018年に米国の自動車内装材メーカー、Sage社を買収し、そのデザイン力を融合し車室空間の総合的デザインやソリューションを目指す。また素材としては植物繊維由来の新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」の自動車部材適用も検討しており、独自のCNFを用いた強化樹脂の開発に乗り出している。
写真18
展示品をみるとEVのリチウムイオンバッテリー周辺部品材料として開発したのが変性ポニフェニレンエーテル樹脂(PPE)を主原料とした発砲ビーズ「サンフォース」〔写真19〕。難燃性、高温剛性、断熱性のほか非常に軽く、設計自由度・寸法精度も優れるといった複合的な特徴を持つ。バッテリーの断熱材やスぺーサー等の軽量化に使用することでEV航続距離の伸長を実現可能としている。
写真19
旭化成が「現行の鉄製品と比べ64%の軽量化ができる」と期待するのが開発中の「高強度、高剛性連続ガラス繊維強化ポリアミド樹脂」〔写真20〕。射出用樹脂や発泡材料、炭素繊維強化樹脂等との複合化により複雑形状構造部品や断熱構造部品、高剛性部品への活用が可能としている。ポリアミド66繊維(PA66)とガラス繊維(GF)を用いた織物を基材とした高強度開発材料で、プレス成形やハイブリッド(プレス+射出複合)成形する。物性は短繊維射出成形品に比べ引張強度、曲げ強度は倍以上でそれぞれ580MPa、800MPa、曲げ弾性率も倍の26GPa、さらに衝撃物性も非常に高い。現在は製品化に必要な強度解析技術等を開発中だ。
写真20
なお、旭化成は樹脂部品の用途拡大へいち早くCAE解析を取り込んできた実績がある。独自開発の旭化成プラスチックCAEシステム「APLACS」は鉄、アルミといった金属部品からの樹脂化を促す大きな武器で、採用例としてオイルパン、ブレーキブラケット、チェーンカバー、エンジンマウント等がある。金属部品を樹脂化に代替する場合、従来は金属形状をもとに強度を高めるため肉厚にするケースが多かった。ただ元が金属部品として作りやすい形状であったため、樹脂化すると無駄が多くなり、軽量化、コスト面での利点が得られないことが多い。そこで同社は樹脂用トポロジー(位相幾何学)最適化解析と繊維配向を考慮した応力解析の2大CAE技術を組み入れた「APLACS」を開発。ユーザーのスペックに合わせた解析を行ない、その結果に応じて形状改良提案、材料提案、寿命予測、金型設計等を提案する。
コンチネンタル、全体最適の視点で樹脂化のポテンシャル示す
かつてはタイヤメーカーとして知られ、現在は統合的なシステム開発力においてボッシュと並び完成車メーカーを上回ると評されているのが独コンチネンタル・オートモーティブだ。ゴム、樹脂製部品を主力にしながら徐々にリチウムイオン電池や電動モーター、自動運転システムの開発まで手を拡げ成長。このシステム力を活かし、もともと強みとしていた樹脂製部品についてもEV化にともなう軽量化ニーズを追い風に、一気に金属部品からの代替を目指している。システム開発力で養った全体最適化の視点から、樹脂がいかに次世代車に貢献できるかをユーザーに訴えているのだ。
今回の展示でも軽量化への最右翼としてアルミ製や鉄製から樹脂成形品への材料置換品を展示。開発品として出品した縦方向エンジン向け「ギアボックスアダプター」〔写真21〕はアルミ製に比べコスト、強度・耐久性は同等で55%の軽量化を実現したものだ。全長235×幅120×高さ75mmでアルミ製だと818gだが、ポリアミド製だと372gになる。
またホットスタンピング材からの代替を目指して開発したのはダイナファイバー製の「エンジンマウント」〔写真22〕になる。全長247×幅177×高さ77mmでスタンピング材だと1600gだが、ダイナファイバー製は1107gで35%の軽量化が可能だ。ただコストは強度・耐久性を同等の設計とするため1、2割増とみる。マウント以外の用途としてタイバー、ブラケットも挙げる。
写真21
写真22
今回は出品していないが同社の材料置換実績は次のようなものがある。「リアアクスル・トランスミッションクロスビーム」は従来のアルミ製から材料置換し、強化ポリアミドグラスファイバーを採用し30%軽量化、2014年末の新型ダイムラーSクラスから採用されている。ダイムラー向けに2016年から量産している「トランスミッションアダプター」やBMW向け「サスペンションマウント」も5割の軽量化に成功した。
トヨタ車体、量産車での採用進む植物繊維由来の射出材料
トヨタ車体は木材、植物繊維由来の射出材料を使用した製品〔写真23〕を出品した。これら製品は同社の新規事業開発部植物材料開発室が窓口となる。今回のブースで紹介したのは射出材料として熱可塑性樹脂(PP・ポリプロピレン)にスギ間伐材を補強繊維として利用した「TABWD(タブウッド)」になる。採用実績も上昇中の材料だ。もう一つは鉄の5分の1の重さで5倍の強度を持つ植物繊維由来の新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」で、剛性・耐熱性を活かした機能部品への採用を狙う有望材料だ。
写真23
トヨタ車への採用実績が徐々に拡大している「TABWD(タブウッド)」〔写真24、25〕は2019年2月からはトヨタの海外向け新型ハイエースの「バッテリーキャリア」として採用された。軽量で高耐熱・高剛性なうえ環境にも配慮した射出材料として登場。通常の自動車用樹脂部品は熱可塑性樹脂の強度や耐熱性を高めるためにガラス繊維や鉱物の粉を添加しているが、同社はこの添加物をスギ間伐材の繊維に置き換えることに成功。ガラスより軽い間伐材の粉を使うため従来の射出材料に比べ1~2割の軽量化が見込める。
これまでの実績〔写真26〕はフォグランプブラケットとして2012年にトヨタのヴォクシー/ノアに採用され、既存の射出材料に比べ部品1個当たり20%軽量化を実現。その後2015年1月からはランドクルーザーをはじめ3車種に採用が拡大した。強度や耐熱性といった特性に加え、難燃性を付与させ高温になるエンジン周辺部品への採用も拡大し、ワイヤーハーネスカバーは2015年2月からアルファード/ヴェルファイアHVに、2017年3月からレクサスLCにも採用された。既存の射出材料に比べると10%の軽量化を実現した。
写真24
写真25
写真26
なお、次世代の樹脂強化材として注目される「セルロースナノファイバー(CNF)」は今後、同社がユーザーへの提案を行なう材料になる。CNFは木材から得られる木材繊維(パルプ)を1ミクロンの数百分の一以下のナノオーダーにまでナノ化(微細化)した世界最先端のバイオマス素材。軽量でありながら弾性率は高強度繊維として知られるアラミド繊維並みに高く、温度変化にともなう伸縮はガラス並みに良好、酸素などのガスバリア性が高いなど優れた特性をもつ。植物繊維由来であることから生産・廃棄に関する環境負荷も小さい。同じ樹脂強化材として先行する炭素繊維は型に骨組み用の繊維を敷き詰めてから樹脂を流し込む仕組みだが、CNFは樹脂に数%混ぜて通常の射出成型機で加工でき、既存設備をそのまま活用できることが大きなメリットになる。