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「人とくるまのテクノロジー展2019」見学レポート ③樹脂及びCFRP、CNF成形編



金属代替狙う高機能樹脂成形、CFRP、CNF

国内最大の自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2019」の第3弾目は高機能樹脂成形品の出展ブースを中心に紹介する。EV化のバッテリーケース等を高機能樹脂やCFRPで試作しているブースがみられその提案先は中国だ。次世代自動車の産業大国を目指す中国は内燃機関を核とするサプライチェーンが脆弱なことが、ためらいなくEV化政策に取り組める要因でもある。既存の製造設備や人材が脆弱なため、新たな取り組みに一気呵成で着手できるのが強みだ。この中国の流れをチャンスと捉え、高機能樹脂やCFRPを中国皮切りに世界に拡げようと画策する樹脂系企業が国内外にある。

2020年6月27日配信

サンワトレ、次世代素材のドイツ製樹脂複合材による成形品

材料、金型販売、成形加工を取り扱うサンワトレーディングは独ボンド・ラミネート社が開発、展開する連続繊維熱可塑性樹脂複合材料「TEPEX(テペックス)」による試作品「バッテリーハウジング」〔写真1〕は中国のCAIP社が成形。重量は鉄製に比べ50%減、アルミ製に比べ20%減の軽量化が可能だ。中国のEV化需要増を狙い、現地で試作し完成車メーカーへの提案を強化している。

写真1

このほか「TEPEX」による製品としてホンダのFCV(燃料電池車)クラリティ・フューエル・セルの「リアバンパービーム」〔写真2〕は2016年に採用されたものだ。重量は鉄製に比べ50%減、一体成形で部品点数も半分になった。TEPEXは成形サイクル1分以下とコンポジット技術としては非常に短いサイクルタイムが特徴。成形はタカギセイコーが担当。またフォルクスワーゲン向け「フロントエンド」〔写真3〕は2017年から採用されている。


写真2

写真3

TEPEXの連続ラミネート技術は成形サイクル1分以下の大量生産向けに開発され、容易な成形、安定した品質が特徴。25通り以上の繊維/熱可塑樹脂の組み合わせができ、抜群の機械特性と耐薬品性、自由なデザイン、さらにエコ材料としてリサイクルできる上、製造・成形時に溶剤は不使用といった利点がある。製造プロセスも部分的な補強、高強度のジョイントや機能部品を一つの工程で合理的に成形でき、型設計も容易なうえ成形後の再成形、微調整も可能としている。臨機応変、変幻自在さといった特徴を要し、TEPEXは射出成形や長繊維熱可塑(LFT)、ガラス強化熱可塑(GMT)による圧縮成形の可能性を大きく拡げる次世代素材として注目を集めている。

TEPEXは連続強化繊維と熱可塑樹脂を最大に利用した組み合わせを実現したもの。これによりガラス、カーボン、アラミドの連続強化繊維にPP(ポリプロピレン樹脂)等の熱可塑樹脂を含侵し、大幅な軽量化と優れた機械特性を示し、ボイドは2%以下になる。製造プロセスはIRヒーターやコンタクトヒーターで加熱処理を行ない、プレスやダイヤフラムで成形できるほか射出成形と圧縮成形を同時に行なうハイブリッド成形も可能となる。これによりトリミング作業の省略、製造工程の統合による時間、コストの削減と自由度の高い製品設計ができる。これらの技術の組み合わせにより前述したように部分的な補強、高強度のジョイントや機能部品を一つの工程で合理的に成形できるのだ。

帝人、対アルミはデザイン性を切り口に攻める

ティア1サプライヤーとしての地位を確立した帝人はマルチマテリアルで部品を供給するメーカーとして素材選定から部品設計まで踏み込んだ提案力拡充を図る。その狙いは鉄やアルミ代替による高機能樹脂及び炭素繊維材等を使った部品採用増だ。そのなかで今回のブースでは外板部品を並べた。

「鉄代替の軽量化で使用されるアルミは成形性の制約によりデザイン自由度が制限される」とし、独自の高機能樹脂や一方向性のGFRPを組み合わせたのが国内初披露の「オールコンポジット製ドアモジュール」〔写真4〕の試作品だ。サイドドアに求められる衝撃吸収特性を保ちながら、鉄を使用した従来ドアに比べ35%の軽量化とアルミと同等の製造コストを実現。金属では難しかった抑揚のあるスタイリングが可能で、さらに電着塗装工程での熱条件もクリアできることから、従来の金属部品塗装ラインをそのまま活用できるのがメリット。

写真4

次いで高度なGF-SMC(炭素繊維材料)製造技術を用いた「クラスA」と称する外観美と軽量性とを兼ね備えた「外板用パネル」〔写真5〕はBMWのi8ロードスターで採用された。鉄に比べ40%軽量化、アルミ比では5%の軽量化になる。帝人グループで北米最大の自動車向け複合材料部品メーカー、コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス(CSP社)が製造。金属材料では複数のプレス型が必要だった形状でもSMCは最小数の成形型で製作でき、製作コスト削減ができ、特に年産2万~10万の少量生産でメリットが高い。

写真5

SMC(炭素繊維材料)による構造フレームとして展示した「バックドア」〔写真6〕はジャガーXFのテールゲート(13kg)で採用されたものだ。熱可塑性のアウターと熱硬化性(GF-SMC)のインナーを組み合わせることで、既存の樹脂バックドアに比べ、補強リーンホースを低減し重量減に貢献。同社は可動部品(フード、ドア、バックドア、トランクリッド等)の軽量化は走行性能の向上だけでなく、「可動時の使用車への負担軽減効果がある」とし、鉄やアルミ部品をターゲットに代替化を狙う。

写真6

三井化学、高耐熱・高電圧部品対応の高機能樹脂を相次ぎ開発

アルミダイカスト製品等を対象に金属代替による樹脂化を目指しているのが三井化学になる。アルミより高強度な熱可塑性樹脂材料として製品化完了したのが高強度・高耐熱ポリアミド樹脂「アーレン」だ。高耐熱、高電圧化するエンジン周辺部品やモーター周辺部品、EV車関連品を対象に開発したもので、ブースでは「ギアボックス」、「サーモスタットケース」、「ウォータージャケットスペーサー」〔写真7〕を展示した。

写真7

変性ポリアミド6Tを世界に先駆け量産化した同社の自信作で、基本骨格に芳香環を取り入れることにより融点320°Cの高耐熱性を実現するとともに従来のポリアミド樹脂の弱点だった吸水性の問題もクリアした。第3成分を加え変性させることで、良好な成形性を維持しながら、耐熱性と低吸水性のバランスをとったポリマー構造を持ち、近年のIT技術を支える表面実装方式の鉛フリー半田にも十分耐えることができる。優れた流動性を持つほかポリアミドの中で最も良好な耐薬品性を示し、高いガラス転移点(125℃)を有しているため、エンジンルーム内等の高温雰囲気下においても高剛性を維持する。

用途事例は自動車向け機構部品としてサーモスタットケース、ウォータージャケットスペーサー、ブレーキピストン、クイックコネクタ、インタークーラータンク、ターボダクト、ダンパー、自動車電装品ではワイヤーハーネスコネクタ、ヒューズリンクハウジング、HV用バスバー、ランプ部品など。電気電子部品ではコネクタ、ジャック、スイッチ等のSMT対応電子部品。

高熱伝導性による高放熱性、低熱線膨張を目指し試作・実験段階なのが「高熱伝導性熱硬化性成形材料(BMC)」〔写真8〕。ブレーカー筐体などの電機関連部材を主用途に開発中だ。一般的な樹脂の熱伝導率が0・2~0・3W/m・K程度に対し、1・5~2・0W/m・Kとなるほか電機絶縁性も高い。また射出成形による高生産性も期待でき、一般的なBMCより4~8倍の流動性を示し、射出成形により封止対象細部への充填性に優れるほか一般的な液状封止材に比べ硬化時間は1/30で大幅な生産性向上が可能。

写真8

また三井化学は樹脂と金属の一体化技術にも力を入れ、ECUボックスや水冷Libモジュール等を対象に軽量化と組立工数削減を狙った一体化技術が「POLYMETEC」〔写真9〕になる。薬液に漬けて特殊な表面処理を施した金属(アルミ、マグネ、鉄)に射出成形した樹脂を高強度・高気密接合したもので、接合メカニズムは金属の表面処理後(金属表面にナノレベルの微細孔を形成)に射出成形し樹脂成形後(射出成形した樹脂が孔に侵入・固化)する流れ。採用実績として水冷Libモジュールがあり、従来のアルミ溶接部品をアルミ部品+樹脂の複合部材とすることで軽量化、気密性、コストダウンを実現、2017年10月から量産開始した。

写真9