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「人とくるまのテクノロジー展2019」見学レポート②非鉄金属及び鉄成形編
対ダイカストも視野に、他成形による金属製品
前回のダイカスト編に続き、昨年5月にパシフィコ横浜(神奈川)で開催された「人とくるまのテクノロジー展2019」の出展製品の第2弾として他製法のアルミ、マグネや鉄による成形品を紹介する。
2020年6月3日配信
UACJ、バッテリーハウジングに永年のノウハウを結集
アルミ圧延業界で世界トップクラスとなる300名の研究員を擁するのが国内最大手のアルミ圧延メーカー、UACJだ。マルチマテリアル化にともない各種アルミ成形品を合わせた接合技術により鉄からアルミへの材料置換を強力に推進中だ。パワートレインの電動化対応でも放熱性に優れる顔料を含む塗膜で電子機器内部の熱を放散する表面処理アルミ合金板「プレコート放熱性アルミ合金板」等により、高まりをみせる部品の放熱要求に応えている。
展示会で披露したのは試作した「EV用バッテリーハウジング」〔写真1〕になる。冷却用クーラントの流路を設けた中空の押出形材をFSW(摩擦撹拌接合)で接合したものだ。EV車の構造はアルミ製フレームにリチウムイオンバッテリーを敷きつめ、それをフロア下に置き、車体構造の一部に使う、というのが欧米でスタンダードになりつつあるという。
写真1
そこで同社は電動化のメインで需要が急増することが見込まれるバッテリーで、アルミ製ハウジングの採用拡大に力を注ぐ。バッテリーは充放電で熱が絶えず発生するため、温度を一定に保つための熱管理が欠かせない。このため、「長年に亘り蓄積した技術の引き出しから複合化を図る」構えだ。
バッテリーハウジングの要求特性として挙がるのは軽量性、気密性、高剛性、放熱性、モジュールへの組付け性になる。これを受け試作した「EV用バッテリーハウジング」では適用技術として軽量化と高剛性に向けホロー押出形材、気密性とモジュール組付性の向上へFSWのほかMIG溶接、レーザー溶接を採用、冷却性能向上ではアルミ押出多穴管、形状自由度の向上では押出形材同士の嵌合/突合せを用いた。
なお、異種材の接合技術として部材を溶融せず接合するFSW(摩擦撹拌接合)を推しているのは①接合時の熱影響部の強度低下が低減される、②接合時の溶融部がなく、熱処理合金でも高い継手強度が得られる、③歪みが小さく残留応力が少なく抑えられる、④溶加材が不要、という理由からだ。このFSWの点接合としてFSSW(摩擦撹拌点接合)も多用する。穴とバリが残らず塗装等の問題がなく、継手強度にも優れるのが利点だ。
またハイテン(超高張力鋼板)の代替化を狙い、大幅な軽量化を達成できるアルミ合金として7000系の自動車構造材〔写真2〕への適用も推進する。これはホットスタンプ工法を用いることで実現したものだ。仕組みは溶体化処理とプレス前加熱を同時に実施し、次に焼入れ(急冷)処理と熱間成形を同時に行なうことにより成形と熱処理を同時に実施。これにより素板の熱処理工程の省略と低コスト化を可能とした。適用候補として高強度かつ難成形部位のサイドメンバー、クロスメンバー、ルーフレール、A/B/Cピラー、リアメンバーを挙げる。
写真2
一方、ボンネットフードやドア、バックドア、ルーフなどのボディパネルは6000系アルミ合金〔写真3、4〕が主流になりつつある。6000系アルミ合金はアルミにMg、Siを添加した中強度で成形性がいい熱処理型合金で、塗装焼付け時の加熱により強度が上がる特性がある。成形加工の際は強度が低いため成形性に優れ、塗装後には高強度になるのが特徴。トヨタのプリウスのボンネットフードもアウターパネル、インナーパネルとも6000系を採用している。
写真3
写真4
アルミ鍛造品で次世代車の部品用途を切り拓く豊栄工業
2018年にリョービグループに入ったアルミ鍛造品メーカー、豊栄工業(三重)はFCV用のアルミ熱間鍛造品(写真5)をリョービブース内で展示した。写真左はジェイテクトに供給するトヨタ・MIRAI搭載の「高圧水素用レギュレーター」(1㎏、A6061合金、熱処理T6)、右は「高圧水素用バルブ」(1・6㎏、A6061合金、T6熱処理)になる。
同社は630~3000トンの鍛造設備を揃え、熱間アルミ鍛造を供給。製品分野は自動車向けを中心に2輪、高級自転車(マウンテンバイク)、電機・産業機械・航空機など多種多彩な部品を生産、専業メーカーとして全国トップクラスの生産能力を誇る。アルミ鍛造品はダイカストと同様に軽量なことが特徴だが、その上に優れた耐圧性・耐磨耗性にも優れる。自動車では重要保安部品、足回り部品として最適な特徴を有している。
写真5